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麻咲による乙女ゲー風(?)オリジナル小説ブログ

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 硝子の瓶を引っくり返す。
 ばらばらと夕立のような音を立てて、カラフルな原色の包装紙に包まれたチョコレートが、白いシーツの上を飾り立てる。

――赤が6つ
  青が4つ
  黄色が4つ
  緑は2つ

  ……ああ、ちゃうわ
  3つやった

  これやと余ってまうな

  ほんなら余った分は
  ジブンのやで?


 下に向けていた顔をあげると、そこには「彼女」の姿はなかった。

 今までいたはずの「彼女」のかわりにいたのは


――分けなくてええんよ

  それは全部
  あんたのやから


 氷つくような、憎しみの眼差し。


――けど
  あんたがいなくなれば

  全部「ありさ」のんやんな……?


――……えっ


 視界がぐるっと回る。

 すぐ近くからあの眼差しが突き刺す。

――さよなら、佳人……!!

 そして、その眼差しとそっくり同じ光を宿したナイフの切っ先が、ためらいもなく、直線的に、振り下ろされた。

――どう、して? ……あ……り……さ









《第2章 悪夢が眠るまで -solitude-》【1】








「……っ」

「あ、起きた」

「……」

「大丈夫?」

「……」

「よちよち、また怖い夢見たんでちゅね~」

「……」

「……」

「……」

「……コーヒーいる?」

 虚ろな瞳のまま有砂が頷くと、蝉は「待ってて」とキッチンに走って行った。

 有砂はベッドの上で横になったまま、身体を丸めて、混濁した意識をかき混ぜて、なだめて、沈める作業を続ける。

 そこには苦痛と不快感しかない。

 汗でべったりと貼り付く髪の感触も、一向におさまらない動悸も、整わない呼吸も、身体の奥から響くような疼痛も、目の前をちらつく「悪夢」の残像も。

「はい、お待ち」

 蝉がコーヒーカップを持って舞い戻ってきた時には、作業は一通り終了し、受け取ったコーヒーを飲んで、

「……薄い」

「薄く作ったの!! ホントはコーヒーなんか飲ませられる状態じゃないんだから」

「……うっさい」

 極めてセンテンスは短いが、いつもの悪態をつく余裕が生まれていた。

 蝉はオレンジのウイッグを外して、真っ黒な短髪の「オフ」モード。

 二人がシェアしているこの部屋ではこの状態が常だった。

「……ってかよっちん、マジで大丈夫?」

「……何が?」

「カラダ痛くない?」

「……痛い……けど」

「ひょっとして何があったかサッパリ覚えてない系?」

「……全然」

 蝉はベッドサイドに頬杖をついて、溜め息をもらした。

「よっちん、借り作ったよ……うちのお嬢様に」

「……借り?」

「今日の練習終わりなんだケドね……」








「ではドラムを始められたきっかけは?」

「ノーコメント」

「……では、heliodorとの出会いは」

「ノーコメント」

「では有砂様の……」

「……ちょろちょろついてこんどいて。鬱陶しいやっちゃ……」

「おい有砂、そいつには一応協力してやれって言っただろうが」

 紅朱に睨まれても、有砂は漂々としたものだった。

「答えたくないことは無理に答えんでええ、ってコイツが最初にゆーたんやで」

「そうは言っても、全部が全部ノーコメントで記事になるわけねェだろ?」

「いいんです、紅朱様。きっとわたくしの用意した質問がつまらないからいけないのですわ」

 日向子はパラパラと質問メモをめくって、有砂に答えてもらえそうな質問を探す。

 有砂はそれを一瞥すると、

「……ほな、お先」

 あっさりと背中を向けた。

「あ、待って……待って下さい……!!」

 万楼の取材に思ったより時間がかかり、原稿の締め切りまで余裕のなくなりつつある日向子は、慌てて有砂を追い掛けた。

 慌てたところで元来挙動がスローモーな日向子が、圧倒的にコンパスの大きさが違う有砂に追い付くのは実に大変なことだったが。

「有砂様!!」

 駐車場まで追い掛けて、有砂の車(白のセダンである)の側まで来てようやく追い付いた。

「……しつこいねん、ジブン」

 うんざりした様子でキーレスリモコンを握る有砂に、日向子は必死で訴えた。

「あの……お急ぎでしたら今日は終わりで構いません。次の取材予約を……」

「……都合、つかへんな」

 日向子は更に何か言おうとしたが、それは叶わなかった。

 思いもかけない邪魔が入ったからだった。


「heliodorの有砂か?」


 すぐさし向かいに駐車されていたライトバンの陰から、ぞろぞろと出てきた集団。
 派手な髪色や服装から見ても、恐らくは有砂と同業者と思われる男たちが総勢四名。

「……ん?」

 有砂はだるそうに返事した。

「てめえか、うちのメンバーの女に手え出しやがったのは」

 四人のうちの一人、紫のソフトモヒカンが言うと、

「……へえ、そうなん?」

 有砂は顔色一つ変えずに淡々とした口調で返し、更に一言つけ足した。

「……どのオンナ?」


「なっ、てめふざけんなっ!!」

「なめてんじゃねえぞ、こら!!」


 背中に火をかけられたかのような勢いで四人は一斉に有砂に向かってくる。

 有砂は舌打ちすると、状況が掴めずにぼーっとしていた日向子の腕を掴んだ。

「きゃっ」


 無言のまま、いささか乱暴にその腕を後方に押しやる。
 日向子は短い悲鳴を上げて、よろけながら斜め後方2メートルまで下がり、最後にはぺたんとおしりから転んだ。

「……有砂様……?」


「……帰りや、お嬢」


 見る間に囲まれた有砂は、体格こそ誰よりも勝るものの、どう考えても四人を相手に勝ち目があるとは思えない……というより、戦うつもりもあまりないようだった。

 背後と両脇から押さえられても抵抗する様子もなく、相変わらず冷めきった眼差しで興奮する相手を見下ろしている。

 そんな態度はいよいよ相手をいきり立たせる。

「この下衆野郎がッ!!」

 紫モヒの拳が思いきり有砂の腹部にめりこむ。

「……っくっ……」

 流石に低くうめいて、苦悶の表情を浮かべる有砂。

 そこへ更にまた一発、怒りに満ちた拳が叩きつけられる。

「……っ……」

 凄まじい光景に座り込んだまま動けずにいた日向子だったが、その瞬間にようやく我に返った。
 
「有砂様が……」

 なんとかしなければ、と思った日向子はバッグから携帯を引っ張り出した。

 この窮地において、日向子がとっさに選んだのは……。


「……玄鳥様ッ! 玄鳥様助けて下さい……有砂様が!!」














「……とゆーカンジで、玄鳥に救援要請があって、おれたちみんなで駆け付けたってワケ」

 蝉はもう一度深く溜め息をついた。

「玄鳥が連中追っ払って、おれがバイク置いて、車運転して連れて帰ってやったのよ?
マジで部屋まで運ぶの超しんどかったしー。カラダばっかデカくなっちゃって手がかかるんだから、この子は……」

 有砂は味気無い味わいのコーヒーをちびちび飲みながら黙って蝉の話を聞いていたが、

「……それは難儀やな」

 いつもの口癖をぽつんと呟いた。

「そこはありがとう、でしょ!! まったくもう……」

 蝉はがしがしと自分の頭をかきむしる。

「だいたい武闘派じゃないクセにさ、なんで毎度毎度似たような喧嘩買うかなぁ。
おれ的には、わざと相手を挑発すんのもどうかと思うんだケド!?」

「……早くかかってきてくれたほうが早く終わるから助かる」

「……なんかもう、よっちんがまだ五体満足で生きてられるのが不思議でしょーがないんだケド……」

 有砂は空になったカップを押し付けるように蝉に差し出した。


「……オレもそう思う」













 一方その頃、日向子は玄鳥の車のサイドシートに座っていた。

「……実はああいうこと、初めてじゃないんですよ」

「そう……なのですか?」

「有砂はトラブルメーカーだからね」

 後部座席に寝転がった万楼も口を開く。

「打たれ慣れてるから心配しなくていいよ」

 三人はあの騒動の後、一息つくべくファミレスでしばらく過ごし、今は日向子を部屋まで送るところだった。

「……しなくていい、と言われましても……心配ですわ」

「いいんです、自業自得なんだから」

 珍しくはっきりと切り捨てるような発言をする玄鳥に日向子は少し驚いていた。

「……玄鳥様……怒っていらっしゃいますの?」

「怒ってますよ。俺ははっきり言ってあの人のそういうところ、大嫌いですから」

 ハンドルを握る玄鳥の横顔は険しく、どこか紅朱と被って見えた。

「……女性といい加減な付き合いばかりするからこうなるんですよ」

「……いい加減な、お付き合い……?」

「あ、えっと……詳しくは知らないほうがいいかもしれないです……」

 言葉に窮する玄鳥を、万楼は遠慮なく笑った。

「お姉さんや玄鳥には刺激が強すぎるよね」

「未成年に言われたくないよ」

 玄鳥は苦笑いで答える。ようやく怒りが薄れてきたのか、いつもの表情に戻りつつあった。

「……でも日向子さんがとっさに俺を頼ってくれて嬉しかったですよ」

「はい……玄鳥様にはわたくしも以前ひったくりの方を捕まえてバッグを取り返して頂きましたし……」

「玄鳥は空手黒帯だからね」

「まあ……」

「兄貴もちょっとやってたんですよ。それで俺も始めたのに、兄貴はすぐ辞めちゃって」

「そうですの……紅朱様が」

 日向子は紅朱の名前が出たところで気になっていたことを尋ねた。

「ところで紅朱様は、今日どうしてすぐ帰ってしまわれたのですか?」

「ああ、バイトですよ」

「バイト……アルバイトをなさってるのですか?」

「そりゃまあ……俺たちアマチュアなんで。流石にバイトしないと食ってけないんですよ。
俺も楽器屋でバイトしてるし……」

「ボクはコンビニ!」

「兄貴は警備のバイトなんで、だいたいは夜勤ですね。蝉さんは……何て名前だったかな、児童福祉施設の手伝いをしてるらしいです」

「児童福祉施設?」

「蝉さんは小さい時にご家族を亡くしてて、その施設で育ったそうで」

「まあ、そうでしたの……」

 次々明かされるメンバーの新たな一面と秘密にしきりに頷く日向子。

 玄鳥はそれをちらっと横目で見て、少し口調を転じて言った。

「この前……蝉さんに送ってもらったんですよね。……あの……何か変わったことは」

「はい?」

「いや、なんでもないです。すいません、詮索するようなこと聞いて……」


 日向子は先日、生まれて初めてバイクというものに乗ったあの時のことを思い出した。

 その前に交した、蝉との会話も。

「……蝉様は、とても親切で、よく気のつく良い方ですわね」

「えっ……あ、まあ……そうですね……確かに」

 自分で話を振って、力いっぱい後悔した玄鳥だったが、内心の動揺を必死に抑え込みつつ、

「あの有砂さんのフォローが出来るのなんて蝉さんくらいですからね」

 とりあえず話を合わせておく。
 もちろん日向子にはそんな複雑な男心などわかる筈もなかったが。

「そういえば有砂様はどんなアルバイトを?」

「ああ、有砂さんは……」

「あら、少しお待ちを……電話が」

 玄鳥の答えを遮り、日向子は振動を始めた携帯をバッグから取りだし、サブディスプレイの表示を見るなり、慌てて出た。

「……有砂様! お身体は大丈夫ですか!?」

 玄鳥と万楼ははっとしたように視線を日向子に向けた。

「……はい? 目黒駅の東口? 明後日の……14時、ですか……あのそれは……」

 日向子は耳元から離した携帯を見つめて、

「切れてしまいました……」

 と困ったように呟いた。

「お姉さん、有砂からだったの?」

「なんですか? 目黒がどうとかって……」

 日向子は携帯を握ったまま小首をかしげた。



「……誘われてしまいました」









《つづく》
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