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麻咲による乙女ゲー風(?)オリジナル小説ブログ

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「……日向子」

 大きな窓から差し込む西日の眩しさに、幼い少女は目を細める。

「なんでしゅの……? おとうしゃま」

「……今日からこの子がこの屋敷で暮らすことになった」

 逆光の中に立つ父と、傍らに佇む少年の姿が、太陽が沈みゆくことでゆっくりと明らかになっていく。

「……はじめまして、おじょうさま」

 まだあどけない顔を緊張にこわばらせながら、少年は恭しくお辞儀した。

「ほんじつより、くぎみやたかつきせんせいのもとでべんきょうさせていただくことになった……『ゆきのぜん』です。
よろしくおねがいします」

 少女は、にっこり笑った。

「はいっ。よろしくでしゅわ、じぇん!」

「……ぜん、です」

 少年は生真面目に訂正した。

「……じぇんっ」

「……ぜん、です」

「だから……じぇん、でしょう?」

「……」

 少年は困ったような顔をしてしばらく考えたあと、言った。


「……ゆきの、とよんでください」








《第3章 林檎には罪を 口付けには罰を -impatience-》【1】







「……先生、失礼します」

「……来たか、漸」

 あの日とよく似た西日が、部屋の中を赤く染めあげている。

「……わかっているとは思うが、娘の……日向子のことだ」

「はい。お嬢様は、おかわりなく健やかにお過ごしです」

「……仕事は順調そうなのか?」

「はい。そのようにお見受け致します」

「……そうか」

 60を間近にした初老の紳士は、その低い声に苦渋をにじませた。

「……もっと早く挫折するかと思ったが、あれも案外としぶとい」

 それは先程の問掛けが、愛娘が選んだ道を尊重し、応援しようという意図とはまるで逆の意味を持つことを如実に物語る言葉だった。

「……それで、日向子にちょっかいを出す不届き者の影はないんだろうな?」

「……はい。そのような気配は……ございません」

 紳士はとりあえず安堵したかのように深く息をついた。

「くれぐれも間違いのないよう、よく監視するように。
日向子はいずれ遠くないうちに見合いをさせて、しかるべき家に嫁がせねばならない。傷物にするわけにはいかんのだからな」

「……心得ております。
それでは、本日もお嬢様をお迎えに参りますので、失礼させて頂きます」

 几帳面な礼をして、「釘宮漸」は茜色の窓に背中を向けた。

「……漸」

 紳士はその背中に言葉を投げる。

「……お前も、釘宮の後継候補の自覚があるなら、雑多でやかましい軟派な軽音楽にばかり傾倒するようなことのないようにしなさい。
私が見込んだ才能を、空費するんじゃない」

 「釘宮漸」は激しく渦を巻く感情を、いつものように呑み込んだ。

 悟られてはいけない本心を隠した。

「……バンド活動に関しましては、先生のご寛大な配慮に感謝しております。
これからも釘宮の名に泥を塗ることのないよう、精進致します……」










「ねえ、雪乃。相談があるのだけど」

「……なんでしょうか」

 日向子は懸命に頭をフル回転させながら、運転席の青年へ向け、昨日から考えておいた台詞をつむぐ。

「雪乃、お父様のお使いをしながらお勉強するの、大変ですわよね?」

「……それが私の役目ですので」

「でも雪乃はいずれ釘宮の家を継ぐ人なのだから、もっとピアノの修練に専念すべきだと思いますの!」

「……何が、おっしゃりたいのですが? お嬢様」

 日向子は「来た!」とばかりに切り出した。

「例えば、わたくしの送迎だけでも誰か他の方に替わって頂いたら、随分と雪乃も楽になるのではなくて!?」

「断固お断り致します」

 きっぱりした口調でぴしゃっとシャットアウトされて、日向子はたじろいだ。

「……やっぱり、ダメですの?」

「当然です……何をお考えですか」

「……ダメですわよねぇ……」

「……誰に頼まれたかは存じませんが、お嬢様を責任持って送迎するのも、私の役目です。他の誰に譲るわけにも参りません」

 日向子はちょっとがっかりしたような顔をしていたが、

「そうですわね。わたくしも、こうして雪乃と話しているとなんだか安心しますし」

 と、次第に機嫌を回復させた。

「わたくしたちは、子どもの頃からずっと一緒ですものね」

「はい」

「でもどうしてお父様はあなたを正式な養子にして、名実ともの後継者にしないのかしら。
いつまでもまるで使用人のような扱いをするなんて、おかしいですわよね。
高校入学を期にあなたがお父様の後継候補になることが決まったと聞いた時は、てっきりわたくしにお兄様が出来るものと思いましたのに」

「……私は、今のままで十分満足しておりますので」

 日向子は小さな溜め息をついて、シートにもたれかかった。

「……お父様のお考えになることは、わたくしにはよくわかりませんわ……」


 日向子を無事マンションまで送り届けた後、雪乃はいつものように、素顔を隠すレンズを外した。

 日向子の部屋の窓に灯りがつくのを見届けながら、「雪乃」から「蝉」になった青年は、言えなかった真実を独り呟いた。

「……おれがキミのお兄ちゃんになれないのはね……雑多でやかましい軟派な軽音楽にばかり傾倒してるから、だよ、お嬢様……」

 自嘲の笑みを浮かべながら、蝉はポケットに入れていた仕事用の携帯の電源を落とし、グローブボックスの中にしまってあったプライベート用のそれと持ち換えた。

「……あ、メール」

 受信ボックスを開くと、20分ほど前に届いていたらしい紅朱からの新着メールがあった。

「……んー?」

 絵文字を一つも使わない洒落っけのない文面の、簡潔なメッセージ。


『緊急ミーティングやる。仕事終わったら綾ん家に集合。
ちょっと面倒なことになった』


「面倒なこと……って何??」









「面倒なことってのは、『D-union』絡みだ」

 紅朱の口から『D-union』という言葉が出た瞬間、全員が微妙な表情を浮かべた。

 玄鳥の部屋……けして広くはないが、綺麗な1ルームの和室に集まったheliodorのメンバー5人。


「『D-union』……ってさ」

 万楼が口を開いた。

「確か、ちょっと前に出来たボクたちの私設ファンクラブだよね。ライブの時に花くれたり、連名でファンレターくれたりする……」

「……善意の団体やで。基本的には……な」

 有砂はたっぷりと含みのある言い回しで呟いた。

「学校の生徒会みたいなもんだからねー」

 蝉が言った。

「マナーの悪いファンを注意したりして、ドーリィを統轄してくれてるのはマジ助かるんだケド……ちょっと過激な団体なんだよね~」

「過激な団体……??」

 興味深げにリピートする万楼に、いつにないほど真剣な顔付きで玄鳥が告げた。

「どうやら……会員制掲示板で、粛清会議っていうのを毎月やってるらしくてね。
行動や思想に問題があるドーリィをターゲットとして選んで、粛清するとか」

「粛清……?」

 あまりにも物騒な言葉に万楼は目をしばたかせた。

「それ、殺すわけじゃないよね?」

「当たり前だろ」

 と、紅朱。

「ライブハウスに出入り出来なくなるように工作したり、メンバーに近付かないように脅迫したり……ってところだな。ほとんど犯罪スレスレだ」

「なんかすごいね……」

 ジュースをちゅるちゅるストローですすりながら、万楼は目を半眼した。

「本当にそんなことやってるの?」

「現状はあくまで噂、ってとこだ。嘘か本当か定かじゃないまま、ネットで流布されて広がっちまってる」

 紅朱は苦々しそうに呟く。

「だがそんな噂があるだけで十分大問題だ。
真偽を確かめたいところなんだが、なかなか容易じゃない」

「何しろ、会員以外には公開されてないですからね」

 玄鳥が後を引き継いで言った。

「会員になるには、厳重な審査があるし……メンバーの俺たちが潜り込んでの内部調査も難しい」

「警察に頼んじゃえば?」

「それも噂程度では無理だよ。ことを荒だてるのは得策じゃないし……」

「そっか……」


 静まりかえった部屋にチュルチュルと、万楼がすするジュースの音だけが響いた。

 その沈黙を破ったのは、有砂だった。



「……お嬢に協力してもらったらどうや?」



 四人はほぼ同時に有砂に視線を向けた。

「よっちん、それどゆコト?」

 代表するようにたずねる蝉。

「言った通りの意味やけど?」

「つまり、あれか?」

 今度は紅朱が口を開いた。

「日向子をスパイとして入会させて、内部調査するってことか?」

「それは難しいですよ」

 玄鳥が言った。

「入会審査は本当に徹底していて、素性を隠すのはほとんど不可能と言っていいでしょう。
日向子さんはマスコミ関係者ですから、警戒されて審査を通らないに決まってます」

「……別に、内部に潜入せんでもええ方法があるやろ?」

「有砂、そんなもったいぶった言い方しないで教えてよ」

 万楼がしびれをきらしたように訴える。他の三人も全く同じ心境だった。

 有砂は、答えた。

「ターゲットになればええやろ」

「ターゲット?」

 万楼は目を丸くする。
 紅朱もいぶかしげに問う。

「……日向子を粛清会議にかけさせるように仕向けるってのか?」

「いくらなんでもそれは……」

 玄鳥が口を挟む。

「日向子さんを危険な目に遭わせることになりかねないでしょう?
とてもじゃないけど俺は賛成できません」

「同意、同意!」

 蝉は元気よく挙手する。

「日向子ちゃんを巻き込むなんてダメに決まってんじゃん!」

「反対するんやったら代替案を出したらどうや?」

 有砂はさらりと切り返す。

 4人は思わず沈黙した。

 今度はジュースをすする音すらしない静けさが広がった。



 結局、結論を保留にしたままその日の緊急ミーティングは解散となった。











「あのさぁ」

 マンションに帰った後。コーヒーをいれるためにケトルを火にかける有砂に向かい、「オフ」モードになった蝉は言った。

「……よくわかんないんだケド」

「何が」

「よっちんさ……うちのお嬢様に、おれの替わりに運転手やりたいって話、マジでしたっしょ?」

「……した。誰かさんのせいで無理そうやけどな」

「それは当たり前! ……ケド、よっちんさ……こないだの一件以来、結構あの子と話したりするようになったじゃん?
おれ的にはうまくいってるんだな、って思ったワケよ。変な意味じゃなくてさ」

「……で?」

「……あの子をターゲットにしよう、なんてなんで言うの??」

 どこか責めるような口調になっているのを自覚していたが、仕方がないと思った。

 有砂は顔色一つ変えない。

「……バンドのメンバーとしても合理的な判断をしただけやろ。
そして、仮にお嬢が危ない目におおたとしたら、それを守るんはジブンの仕事ちゃうんか?」

「それはっ……そうだケド……」

「守りきる自信がないんやったら、偉そうに監視役を気取るのはやめるんやな……鬱陶しいだけや」

「……よっちん……」

 蝉は、動揺していた。

「……ジブンは、heliodorのメンバーとしても、お嬢の世話役としても、釘宮の後継としても……中途半端やな」


 つきつけられた言葉は、鋭く胸に突き刺さった。













《つづく》
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「ごめんね、お姉さん。今日の練習、蝉はいないんだ」

「まあ、どうなさったのですか? 蝉様」

「うーんとね……」

 万楼は芸術品めいた綺麗な顔に、苦笑を刻んだ。

「なんか、家出しちゃったみたいなんだ」

 予想を越えた告白に、日向子は手にしていたいつもの白いバッグをすとんと取り落とした。

「い……家出ですの!?」

「うん。有砂に置き手紙残して行ったみたい。
『原点に返って自分を見つめ直してくる』とかって。
玄鳥が携帯にかけたけど繋がらなかった」

 日向子はバッグを拾い上げるのも忘れて、淡々とドラムセットの調整を行っている有砂にちょこちょこと駆け寄る。

「あの……蝉様が家出なさったというのは本当でしょうか」

「……そうみたいやな。バイクもなくなっとったし」

「昨日の蝉様に変わったところはございませんでしたか? 何かお悩みなのでは……」

 心配に胸を痛める日向子を、有砂は相変わらずの無愛想な顔で見やった。


「……気になるなら、様子を見に行ったらどうや?
あいつは多分……『スノウ・ドーム』におる」







《第3章 林檎には罪を 口付けには罰を -impatience-》【2】







「『スノウ・ドーム』……」

「結構遠かったね。車とかバイクなら半分の時間で着くみたいだけど」

 電車とバスを乗り継いで2時間半。
 都会の喧騒から遠く離れた山沿いの土地にそれはあった。

 どうやら小さい子供たちの手で作られた手書きの看板は、風雨にあせながらも独特の温かで素朴な雰囲気を漂わせていた。

 その脇には、数十段にわたる石段があり、看板の矢印はその上を示している。
「この上のようですわね」

「結構急な階段だから気を付けてね。バッグ、持ってあげる」

 万楼は日向子の手荷物をひょいっと取って階段を登り始めた。

「ありがとうございます、万楼様」

 日向子もその斜め後ろに続く。

「……それにしても本当によろしかったのですか? わざわざご同行頂いて」

「うん。バイトも休みだし……ボクも蝉のことは気になるし」

「やはりそうですわよね」

「……それにさ」

 万楼は少し首をひねって、どこか悪戯っぽい笑顔を日向子に向けた。

「たまにはお姉さんと二人っきりで遠くへ出掛けたかったから」

「万楼様……」

 今日のようによく晴れた日の、秋の高い青空のように澄んで美しい微笑に、日向子は一瞬見とれていた。

「あの……わたくしも、万楼様とご一緒出来て嬉しいですわ」

「本当? よかった」

 万楼はまた前を向き直って、流石はリズミカルに石段を蹴る。

「でも、お姉さんはこれがボクじゃなくてもそう言うよね、きっと」

 日向子は思わず首を傾げる。

「……先日、有砂様に似たようなことを言われた気が致しますわ」

「ふうん……やっぱり思うことはみんな一緒なんだ」

 少し遅れ出した日向子に合わせ、万楼は階段を登るペースを落とした。

「お姉さんって、ボクたち5人に徹底してニュートラルだよね……記者さんなんだから当たり前だけど」

「わたくしとしては意識してそうしているわけではないのですけれど……それはよくないことでしょうか?」

「ううん、多分それが正しいんだよ。だけど男としては、ちょっと聞いてみたいかな」

「はい……?」



「お姉さんは……heliodorのメンバーの中で、誰が一番好き??」



 日向子は思わず足を止めて、秋風にサラサラと絹糸のような髪をなびかせる万楼の後頭部を凝視した。

「……誰が一番、好き、か……ですか? えっと……」

「ああ、ごめん。本当に悩まなくていいよ。答えられないのわかってるから」

 万楼も立ち止まり、今度は身体ごとくるりと日向子を振り返った。

「みんな同じくらい好きならそれはそれでバランスが取れるからいいのかな」

 確かに日向子には難しすぎる質問だった。

 紅朱も、玄鳥も、蝉も、有砂も、そして万楼も……日向子にとってはみんな等しく尊敬と好意を抱く存在だからだ。

 もちろん誰が欠けてもいけないし、誰か一人を贔屓するようなこともしてはいけないような気がしていた。

 というより、本当に考えたことがなかったのだ。


「うまくお答えできなくて申し訳ありません……」

「だから、それはわかっていて聞いたんだって。謝らないで」

 そう言って笑った万楼は、

「……ん?」

 にわかにそれを打ち消して、視線を石段の上に向けた。

「万楼様……?」

「聞こえない? 音」

 日向子は黙って、秋風に耳をこらした。

「……あ……」

 風は、微かにだが聞き覚えのあるメロディを、二人のもとへ運んできていた。いくつもの甲高い笑い声をまじえて。

「この曲は確か……」

「うん。絶対そう……heliodorの曲だよ」

 二人は顔を見合わせて頷き、万楼はバッグを持っていない手で日向子の手を握った。

「行こう」

「……はい」

 強く握る手に導かれて、日向子は急ぎ足で石段の残りを駆け上がった。















《今更背伸びをしたところで
 意味がないことを知っていた
 僕らの視界は交わらないよ
 見たい景色が違うから》


 ギターを鳴らしながら、まだ幼さの残る少女が歌っている。


《今更約束したところで
 果たせないことを知っていた
 僕らの時間は重ならないよ
 欲しい未来が違うから》

 ベースとドラムを演奏するのも、それぞれ違う年頃の少女たちで、彼女たちが鳴らす音は、heliodorの楽曲を大幅にアレンジしたものとなっている。

 原曲よりポップス色が強く、いかにも愛らしい少女たちによく似合うような編曲だ。

《わかり合えない絶望を
 わかり合うこともできなくて
 わかったようなことばかり
 わけもわからずに》


 それはかなりレベルの高いheliodorのコピーバンドのようだったが、その表現はあるいは適切ではないかもしれない。

 なぜならキーボードのパートを奏でているのは、コピー元の本人だったからだ。


《林檎には罪を 口付けには罰を
 僕たちはふがいない王子と姫
 抱えた夢ほどは愛せなかったね
 大事にもできなかった

 棺の中に君を残して
 今 この森を去ろう》


 1コーラス目が終わった時、ふと周りを見渡したキーボーディストは、日向子と万楼に気付き、その指を止めた。


「日向子ちゃん……万楼……」

 ともにステージに立っていた三人の少女たちも演奏を中止し、一斉に振り返る。

 丸太を組んだ素朴な円形ステージの下に集まってはしゃいでいた10人ちょっとの小さな子供たちも、不思議そうにしている。


「蝉様……お会い出来てよかったですわ」

 ほっとしている日向子とは裏腹に、蝉はどこか焦ったような顔をして、

「うづみちゃん」

 ドラムを担当していた、20歳かそこらであろう黒髪を三つ編みにした眼鏡の少女へと声をかけた。

 うづみというらしい、いかにも真面目そうなその少女は、蝉を見やって一度頷き、立ち上がってステージを降り、日向子と万楼のほうへやって来た。

「ようこそ、《スノウ・ドーム》へ」

 うづみは微笑んで、言った。

「今日は私たち《heliometer(ヘリオメーター)》のライブの日です。
よかったら、こちらへ来て聞いて下さい」

 ヘリオメーター……太陽儀を意味する名前。

 日向子と万楼はまた顔を見合わせた。
















「あれはさ、おれがプロデュースしたコピーバンドなんだよ」

 誰もいなくなった丸太のステージに腰かけて、蝉が少し得意そうに言った。

「ドラムのうづみちゃん、ベースのいづみちゃん、ギタボのちづみちゃんの三人編制で、今日はおれがサポやってみたんだケド。いいカンジだったっしょ?」

「うん。よかった」

 万楼が興奮した様子で頷いた。

「特にドラムの……うづみちゃん? 頑張ればプロで通じるんじゃないかな」

「マジで? それ本人に言ってやって。めちゃめちゃ喜ぶから」

 日向子は楽しそうに話す二人を見て、改めて安堵していた。

 蝉が家出したと聞いた時には、何か余程深い悩みがあってのことに違いないと思い心配していたが、少なくとも今見た限りでは、予想よりは遥かに元気そうだった。

「……ここが蝉様や有砂様が生活されていた場所ですのね」

「せっかくだから有砂も来ればよかったのに」

「ど~かな~」

 蝉は苦笑する。

「ぶっちゃけ、うづみちゃんは、昔っからよっちんをライバル視してんだよね~……よっちんに対抗してドラム始めた子だからさぁ。
一緒に来てなくてある意味正解だったかも」


 蝉の話では、三年前にスノウ・ドームの設立者だった園長先生が他界し、ドームの出身者でスタッフとして働いていたうづみが後を継いで実質上の経営者となっているらしい。
 いづみは高校生、ちづみは中学生で、それぞれドームを出た後、学生ボランティアとして働いているということだった。

 一方でheliodorの大ファンでもある三人はそれぞれ楽器を勉強し、蝉の協力を受けながら「heliometer」を結成した。

 毎週日曜日に子どもたちの前でライブをするのが恒例行事だという。

「さながら、heliodorの妹分ですわね」

「うん、そんなカンジ☆」

 蝉は本当に嬉しそうだ。
 彼にとってこの場所と、それに関わるものがどれだけ愛しいものであるかを物語っている。

「……あの、蝉様」

話の流れが一段落したところで日向子は切り出した。

「……当分、こちらでお過ごしになるおつもりですか?」

 蝉はゆっくり首を横に振った。

「……ううん。明日には帰るつもり。そんなにゆっくりはしてらんないんだよね……やんなきゃいけないこといっぱいあるし」

 その表情にはどこか複雑な色が見てとれた。

「蝉、帰りたくなさそう」

 万楼はそれを直球で指摘した。

 蝉はまた首を左右する。

「そーゆーワケじゃないんだ。マジで。ただなんていうか……」

「……お疲れでいらっしゃいますのね?」

 日向子は心から労るように言った。

「……蝉様には今休息が必要でいらっしゃるのだと思いますわ」

 蝉は日向子をじっと見つめて、ふっと笑んだ。

 どこか辛そうに。

「……そだね。多分ちょっと疲れちゃったんだ。……おれ、すごい欲張りだからさ……なんか一個捨てられれば楽になるのに、結局全部抱えちゃうんだよね」

 憂いを宿した目線が、足元へと落ちた。

「だからおれは……何をやっても、中途半端なんだ」

「蝉様……?」







「皆さん、お食事の用意ができましたよ。
食堂へお集まり下さい」






 沈んだ空気を撹拌するかのように、うずみの声が響いた。

 蝉は一つ溜め息をついて、

「いこっか♪」

 いつものように明るい声で二人を促し、腰かけていたステージを降りた。


 日向子は微かな胸騒ぎを感じていた。













《つづく》
「ここが万楼さんに使って頂くお部屋ですよ」

「ありがとう、いづみちゃん。いきなり来ちゃったのにこんなにいい部屋を使わせてもらっていいの?」

 黄色がかった明るい茶髪の前髪を黒いパッチン止めで止めた、いかにも快活そうな少女は、ちょっと顔を赤らめながら、

「遠慮しないでゆっくりしていって下さい……そのかわり」

「なに?」

「《Good bye,fairy tale》のアウトロのキメがちょっとうまくいかなくて悩んでるんです……よかったらアドバイスして頂けませんか?」

「うん、いいよ。ボクが教えなくても、いづみちゃんは上手だけどね」

「とんでもないです! わたしなんて全然……」

「これからまだまだうまくなると思うな。……それにしても月が明るいね? 今日は満月かな」

 万楼は窓辺に立って、閉めきられていたカーテンを少し引いた。

「……ぁ」

 途端に、まるで目眩のような感覚を受けて、足元がわずかにふらつく。

「万楼さん……?」

「ううん……なんでもない」

 窓の下には漆黒の水面が静かに広がっていた。
 少しだけ強い夜風に波を打つ、大きな湖。

「……ちょっと苦手なんだ。夜の海」







《第3章 林檎には罪を 口付けには罰を -impatience-》【3】








「アタシは、ゼン兄がここで暮らしてた頃のことは覚えてないんだけど」

 猫っ毛を耳の上でツインテールにした、ちょっとぽっちゃりした可愛らしい少女は楽しそうに「ゼン兄」を語る。

「アタシが赤ちゃんの時から可愛がってくれてたんだってうづ姉から聞かされてきたの。
ゼン兄は優しいし、面白いし、大好きなんだ」

 ベッドに腰かけて足をブラブラさせながら話すちづみを、日向子は微笑ましそうに見つめて、耳を傾けていた。

「子どもたちもみんな、蝉様をよく慕っていらっしゃいましたわね」

「うん。ゼン兄は『スノウ・ドーム』の誇りだから。みんなゼン兄の夢を応援してるよ。
特にうづ姉にとっては、ゼン兄は初恋の人だしね」

「……初恋……ですか」

 日向子の脳裏に、黒いコートを着た優雅な物腰の青年の姿がよぎった。

「初恋の人はいつになっても特別なものですわよね……」

 左手のブレスに触れる。

 日向子にはうづみの気持ちがよくわかるような気がした。
















「マジで助かったよ、うづみちゃん」

「任せて。ゼン兄の秘密は全力で守るから」

 『園長先生のお部屋』というプレートのついた小さい部屋の中で、幼馴染みの二人は温かいお茶を飲んでいた。

「釘宮のお嬢様ってああいう人だったんだ。もっとつんつんした嫌な女かと思っちゃった」

 冗談めかして笑ううづみに、蝉も笑った。

「お嬢様はいい子だよ。かなりズレたとこあるケド、芯は通ってるカンジっての?」

「ふーん……」

 うづみはカップから上る湯気で曇ってしまった眼鏡を外しながら呟いた。

「……だけど釘宮の人なら、私は好きになれない」

「うづみちゃん……」

「ゼン兄の夢を邪魔するものは好きになんかなれないの」

 口調はきっぱりした冷たいものだったが、その表情には蝉に向けられる限りない優しさがあった。

「心配しないで。必ず私がゼン兄を釘宮の呪縛から解き放ってあげる」

「うづみちゃん……おれはいいんだよ」

 蝉はうづみの頭にぽん、と手を乗せて諭すように言う。

「おれはゼッタイ釘宮の後継者になるよ。そうすれば『スノウ・ドーム』の経営なんて簡単に建て直せるんだから。
そのためにピアノを死ぬ気で練習して、釘宮高槻に気に入られるような人間を演じて、自分を売り込んで……ここまでやってきたんだからさ」

「だけど……ゼン兄には夢ができたじゃない」

 うづみはどこか泣きそうな顔だった。

「heliodorがゼン兄の夢でしょ? バンド活動は容認されてるっていったって、プロデビューまでは許してくれないだろう……って、ゼン兄言ったよね。
釘宮の後継になるために、夢をあきらめるなんて絶対ダメよ」

 その必死な言葉は蝉の心に規則正しく張られたピアノ線をはじく。

「……そうするだけの価値があるんだよ。おれにとって『スノウ・ドーム』は家族なんだから……」

 うづみは睫の長い瞳に涙を浮かべたまま、頭にのっかっていた蝉の手を取り、両手で包んだ。

「私だって蝉兄の夢を守るためならなんだってできる。……悪魔と契約することも」

「うづみちゃん……?」

「もうちょっとなの……もうちょっとでゼン兄を自由に出来るの。年が明ける頃にはきっと……」

「……うづみちゃん、キミは何を……」



 こんこん。



 ドアをノックする音が唐突に響いた。


「ちづみです。ゼン兄いる? 日向子さんがちょっと話したいんだって」


 蝉はふうっと息を吐いて、カップの残りを飲み干した。

「わかった、行くよ。日向子ちゃん今どこ?」

「えっとね……」

 ドアの向こうから返事が返るより早く、届いてきたのは囁くような柔らかなピアノの音色だった。


「……遊戯室みたいだね。ごめん、うづみちゃん。ちょっと行ってくる」

 すり抜けようとする蝉の手を、うづみは強くつかまえたまま、
 
「……今日は『釘宮漸』じゃないのに?」

 じっと目を見る。

 蝉は小さく笑う。

「『蝉』にとってもね、邪険にはできない子だからさ」

 すり抜けていく手を引き留めきれず、一人部屋に残されたうづみは、しばらく蝉の使っていたカップを見つめていた。

「……ゼン兄……」











 古くてちっぽけな、まるで玩具のようなピアノの前に座り、日向子は片手だけで「てのひらを太陽に」を弾いていた。

 たまたま音階をエンピツで書き込まれた、小さな子ども向けのの薄茶けた譜面がそこにあったからだ。


 単音の素朴な旋律が、まるでオルゴールのように響いていた。


 と。

 不意に後ろから伸びてきた手が、日向子に合わせて、シンプルな伴奏を奏で始めた。

 手を止めずに振り返ると、オレンジの髪の明るい笑顔の青年が立っていた。

 日向子は微笑を返した。

 それからしばらくの間、二人は言葉を交さずに連弾を続けていたが、そのうちに手は休めることなく日向子が口を開いた。

「……なんだか懐かしいですわ」

「え?」

「よく雪乃にもこうして遊んでもらっていました」

「……へえ」

「実はわたくしの父はピアニストですの。わたくしも物心ついた頃にはすでにピアノのレッスンを」

「……そうなんだ」

「けれど……わたくしには才能がないと、お父様はおっしゃいました」

 日向子はゆっくりと、鍵盤を辿るのをやめた。

「いくら努力しても、わたくしはピアニストとして大成はしないだろうと、お父様はおっしゃいました。
そしてわたくしよりずっと才能のある男の子をどこかから連れてきました……それが雪乃ですわ」

 同じように演奏を中断した蝉は、無言のまま日向子の昔語りを聞いていた。

「雪乃は、練習に励んでお父様の期待に完璧に答えながら、一方でわたくしにもとても優しくて。
母が急逝した時も、泣いているわたくしの側でずっとピアノを弾いていてくれましたの」

「そっかそっか……でもさ」

 タン、と1つ鍵盤を弾いて、蝉は言った。

「それってさ……実は日向子ちゃんに取り入るために下心があってやってたのかもよ」

「……え?」

「だってその人、どこの誰とも知れないような育ちなんでしょ。
いくら才能があるからって、日向子ちゃん家みたいな家にいたら孤立したり、中傷されることだってあったんじゃないの。
だからさ、自分の立場を守るために日向子ちゃんを手なずけて……」

「蝉様」

 珍しく少し怒ったような顔で日向子は蝉を振り返った。

「いくら蝉様でも、そのような物言いはお控え頂きたいです。
正式な養子縁組の手続きを踏んでいなかったとしても、わたくしにとっては雪乃は家族も同然なのですから」

「……」

 蝉は返す言葉を求めて視線を左右に動かしていたが、やがて目を伏せ、わずかに赤面しながらぽつりと呟いた。

「……変なこと言ってごめん」

「いいえ、わたくしこそぶしつけな態度をとってしまいまして申し訳ございません」

 日向子もとっさとはいえ、一瞬本気で蝉に怒りをぶつけてしまったことが恥ずかしくなって顔を赤くした。

「……家族か」

 蝉はしみじみとした口調で語り出した。

「おれさ……一家心中の生き残りなの」

「蝉様……」

「借金を苦にして車で崖に突っ込んで……父さんも母さんも、まだ赤んぼだった妹も即死だったのに、なんでかおれだけ軽傷で助かっちゃったみたい」

 不幸と幸運を重ね合わせたかのような蝉の過去に、日向子は胸が苦しくてたまらなくなった。

「成長して、そのへんの事情わかってからは意味もなく悩んだよ。どうしておれだけ生きてるんだろう、何の為に生きてるんだろう……って。
そんな時におれを救ってくれたのは、ココの園長センセ」

 蝉は懐かしそうに目を細めて、「てのひらを太陽に」の楽譜につづられたクセのあるドレミを見つめる。

「『漸が生きているのは、まだ漸にはやらなきゃいけないことがあるからなんだ。
誰かのために。何かのために。漸はまだまだ生きていかなくちゃいけないんだよ』
……って言ってくれて、『少しでもお前が生きていく上の楽しみになってくれれば』って、ここでおれにピアノ教えてくれた」

 愛しげに傷だらけのピアノを撫でる蝉。

「それがあったから今のおれがあるんだと思う……時々どうしようもなく苦しくなるけど、ピアノと出会えたことには感謝してるよ。マジで……」

 日向子は微笑して頷いた。
 本当にこの場所は、蝉にとっては原点そのものなのだ。

 生きることの意味を知り、ピアノを奏でる喜びを知り、たくさんの家族のような存在を得て。

「ここにいらっしゃらなければ有砂様とも出会っていらっしゃらないですものね」

「そーそー、そこ重要。なんせおれをバンドにハメてくれちゃったのはよっちんだからね」

「……あら、有砂様に取材させて頂いた時には、高校の時に蝉様から誘われて軽音部に入ったのがきっかけとおっしゃっていましたけれど……」

「確かに軽音部に引っ張り込んだのはおれだけど、その前……中学時代によっちんはもうドラムやってたからね。
たまたまよっちんのガッコの学祭に行く機会があって、そん時の演奏がめちゃめちゃカッコよかったもんだから、おれもどうしてもやりたくなっちゃったんだよね~」

「まあ……そうでしたの」

「まさかその頃は、ここまで本気でやることになるなんて思ってもなかったんだけどね~……」

 日向子には、蝉の辿ってきたけして安楽ではない道のりが、全てheliodorへと繋がっていたようで感慨深かった。

「蝉様の生きる意味は、heliodorのため……になったのですか?」

 蝉はそれを受けて、不意に苦笑に転じた。

「……どうなんだろ。まだよくわかんないんだ……おれ」












《つづく》
「そういえば……話ってなんだったの?」

 部屋の前まで日向子を送り終えたところで、蝉はようやくそれを思い出した。
 忘れていたのは日向子も同じで、

「まあ、そういえばそうでしたわ」

 とかなり間抜けなリアクションをしつつ、切り出した。

「蝉様のお名前のことです」

「名前?」

「本当のお名前も、芸名もどちらも《ゼン》様ですわよね。何故《蝉(セミ)》という字をお当てになったのですか?」

 蝉は少し考えるような顔をした後で、こう答えた。

「セミ好きだからかなぁ」

「はあ」

「セミのオスって身体ん中空っぽなの知ってる? だからあんなふうに鳴き声が響くんだよ……なんかすごいじゃん?
まるで鳴くためだけに生まれてきたみたいでさ。
その潔さに、おれはちょっと憧れてんの。
なんせ中途半端な人間だからね」

 自虐的に言いながら笑う蝉を、日向子は不思議そうにじっと見つめる。

「《中途半端》……」










《第3章 林檎には罪を 口付けには罰を -impatience-》【4】









 蝉に「おやすみなさいませ」を言って部屋に入った日向子は、ベッドに腰かけてぼんやりしていた。

 《中途半端》

 蝉が繰り返し、自分を非難するその言葉。

 もしかして蝉の「家出」はそれを誰かに指摘されたからではないのか?

 恐らくはずっと蝉自身が感じていたことなのだろうが、それを改めて思い知るようなことがあったのかもしれない。

 《中途半端》という言葉から、日向子はなんとなく昼間万楼に言われた《ニュートラル》という言葉を思い出していた。

 メンバーに対して徹底してニュートラル……それは5人に対する日向子の気持ちが《中途半端》だということだろうか?

 日向子はそうは思いたくなかった。


 日向子はそうしてずっと思索に耽っていたが、やがて時計の針が22時を回った時。


 こんこん。


 ノックの音が思考を現実に引き戻した。


「ちづみです」

「ちづみさん……?」


 こんな遅い時間なのにまだ帰宅していなかったのかと驚きながら、日向子はドアに急ぎ足で歩み寄り、開けた。

 ツインテールの愛らしい少女がにこにこしながら立っていた。

 手にはお茶とお皿が乗ったお盆を持っている。

「ねえ、りんごを剥いたの。お茶をしながらお話しない?」

「こんな時間ですのに……?」

「家は近いから平気よ。アタシ、雑誌記者の仕事に興味があるんだ。だから日向子さんに話を聞いてみたかったの。
ね、いいでしょ??」

 とびかかる勢いで訴えられて、少し驚きつつも、日向子は微笑して頷いた。

「では、少しだけ」

「やったー、ありがとう」

 お盆を落としてしまうのではないかというテンションで喜びながら、ちづみは部屋の中へすべり込む。

 そんなちづみの様子を微笑ましく思いながら、日向子は再びベッドに座り、ちづみもその横に座った。

 少しだけ歪だがうさぎ型に切られたみずみずしいりんごを、日向子はちづみに感謝の言葉を言って口にした。

「とてもおいしいですわ」

「そう、よかった」

「……それで、わたくしは何からお話すればよろしいかしら」

 ちづみは持ってきた紅茶を飲みながら、一度深く息を吐いて、切り出す。

「うづ姉は白雪姫なの」

「え?」

 あまりにも脈絡のない言葉に日向子はちづみを凝視した。

 ちづみは真面目な顔で日向子を見つめ返す。

「ここでたくさんの小人たちのために頑張ってる白雪姫なんだよ。
そしてゼン兄は王子様だから……いつか必ずうづ姉を迎えに来るの」

 声音は先程までと打って変わって切迫した、別人のようなそれになっている。

「……さっき遊戯室で、日向子さんとゼン兄が楽しそうにピアノ弾いたり、話したりするの……うづ姉見てて……泣いてたから……だから」

「ちづみさん……?」

「……うづ姉のゼン兄、盗らないで。ここから帰ったら、もうゼン兄と会わないでよ」

 予想もしない懇願に日向子は戸惑いながらも、

「ちづみさん……わたくしの今の仕事はheliodorの記事を書くことですの。蝉様に会わない、というお約束はできませんわ」

 なるべく優しい口調で説得を試みる。
 しかしちづみは激しく首を左右した。

「だめ! ゼン兄に近付かないで!!」

 カシャンと紅茶のカップがカーペットに転がって、茶色い染みが広がる。

 ちづみは走って窓辺に駆け寄ると、カーテンを一気に引いて、窓を全開にした。

「会わないって約束しないと、アタシ、飛び降りちゃうから!!」

 窓枠を掴んで、よじ上るちづみを見て、日向子は血相を変えて駆け寄った。

「ちづみさん、いけません! 降りて下さい!」













「変だなあ……ちづみったらどこ行っちゃったのかなぁ」

「いつもなら、そろそろ帰る時間なんだよね?」

「はい。明日月曜だから学校だし……」

 いづみと万楼はちづみの姿を探して、スノウ・ドームの敷地内を、明るい月に照らされながら歩いていた。

「それにしても、遅くまで指導してもらっちゃってすいませんでした」

「ううん。いづみちゃんは熱心だし、飲み込みが早いから。ボクも教え甲斐あったし、楽しかった」

 いづみはまたはにかんだ表情を浮かべて「えへへ」と笑った。

「よかったらまたここに遊びに来て下さい、他のメンバーの皆さんにも是非heliometerの演奏、聞いてほしいですし」

「うん。きっとこの次は全員で……」

 「遊びにくるよ」と言おうとした万楼の声は、途切れてしまった。

 すぐ近くから響いてきた、二種類の悲鳴と、大きな水音によって。

「……なに?」

「裏庭の……湖のほうみたい」

 二人はただならぬ気配を察して、走り出した。

 裏庭といえば、来客用の部屋の並びから見渡せる、あの場所のことだった。

 暗い水をたたえた大きな湖。

 やがてそれが目の前に現れると、万楼は息苦しいような感覚に襲われていた。

「いづ姉!!」

「ちづみ!?」


 三階に位置する窓からちづみが身を乗り出している。

「いづ姉っ……日向子さんが落ちちゃったのっ……!!」

 泣きながら叫ぶ声に、二人は湖に広がる大きな波紋を見た。

「お姉さん……!!」

 万楼は湖に慌てて駆け寄ろうとした。

 しかし、駆け寄ろうとしただけで、足は一歩も前に進んでいなかった。

「……あ……っ」

 黒い、水面。
 騒ぐ、波。

 果てしない深い闇のようなそれを見つめるだけで、万楼の足はすくんで動かない。
 それどころかまともに声を出すことすら、難しくなっていた。

 汗が吹き出し、呼吸が乱れ、手足の先が冷たくなっていく。

「おね……っ……さん……ごめ……ボク……っ……」

「万楼さん!?」

 おびえたようにしゃがみこんでしまった万楼に、いづみはうろたえる。

「万楼さん!? 大丈夫ですか……??」

 名前を呼ぶ声は届いていなかった。

 万楼は地面に崩れるように座り込み、頭を抱えこむ。

「……ごめん……ごめん……ボクが……離したから……ごめん……ごめんね……万楼……」

 まるで何かに取り憑かれたかのようにぶつぶつ呟いている言葉は、意味不明なものだった。

 完全な錯乱状態のようだ。


「ど……どうしよう……」

 万楼の混乱や、ちづみの動揺がそのまま流れ込んだかのように、いづみもまた冷静な判断力を失いつつあった。

 ただ、少しずつ静かになる湖の波紋を凝視して立ち尽くすばかりだった。


 その時。


「どうしたのっ!!」


 ちづみが立っている窓辺……つまりは日向子の部屋に、蝉が駆け込んできた。

 ちづみは泣きわめきながら蝉に取りすがる。

「ごめんなさいゼン兄っ……アタシは、そんなつもりじゃなかったのっ……日向子さんが落ちちゃうなんて……!!」

「ちづみちゃん、大丈夫だから。落ち着いて。うづみちゃんに知らせてきて」

 蝉はちづみを安心させるようにその頭を撫でてやりながらそう告げて、

「日向子ちゃん!!」

 何のためらいもなく窓枠を掴んで、蹴り上げ、そのまま宙に身を投げ出した。

 暗く深い湖へと、蝉はダイブした。















 衝撃を感じた瞬間に、日向子の意識はほとんど四散していた。

 痛い、も、冷たい、も、怖い、も感じることはなく、ただただ「沈んでいく」感覚だけは何故か理解できていた。

 このまま「沈んでいく」と帰ってこれないこともわかっているのだが、どうすることもできなかった。


 だが不意に。
 「沈んでいく」感覚は終わりを告げた。

 誰かが確かに日向子の身体を捕まえていた。

 しっかりと抱き締めて、上へ上へと。

 やがて日向子は水音らしきものを耳にした気がした。

 それとほとんど同時に、

「……日向子ちゃんっ!? 日向子ちゃん!!」

 必死に名前を呼ぶ声が聞こえる気がしたが、返事をすることができない。

 苦しい。

「……日向子ちゃん! 日向子ちゃん! ひな……」

 再び意識が遠のいて、そして、やがてまたふわりと舞い戻る。

 2、3度咳き込むともう、苦しくはなくなった。

 朦朧としていたが、日向子はゆっくりと目を開ける。

 驚くほど近くに、誰かの顔があった。
 ピンボケの視界では輪郭も定まらない。

 けれど日向子はなぜかその人物にはっきりとこう呼び掛けた。

「ゆ……き……の?」

「……日向子ちゃん?」

「……雪、乃……」

 こんなところにいるはずがなく、雪乃が自分を「日向子ちゃん」などと呼んだことがないのはわかっているのだが、日向子には何故かそれが雪乃にしか思えなかった。

「……雪乃……ありが……とう」

 一生懸命笑みを作って、ろくに力のこもらない腕を伸ばした。
 その手はしっかりと握りしめられ、一拍おいて、

「……お気をしっかり、お嬢様……もう心配はございません」

 確かに日向子のよく知っている、冷静な声が語りかけてきた。

 心の底から日向子を安心させる、大切な家族の声。

 やがて少しずつ視界がはっきりしてきた。
 眼鏡こそかけていなかったが、それはやはり雪乃のようだった。

「……よかった……雪乃がきてくれて……」

 日向子が呟くと、雪乃は真剣な顔で見つめながら、握り締める手により一層力を込めた。

「ご安心下さい……いついかなる時でも、どのような危険があろうとも、この私がお嬢様をお守り致します」

 日向子は力を振り絞って、その手を握り返した。

「雪乃……」

 雪乃はそっと、日向子の手を引き寄せ、その甲に唇を、落とした。

「私に守らせて下さい……あなたは私の……かけがえないのお方ですから」

 もう一度、雪乃へ微笑みかけて、日向子はゆっくりと意識をフェードアウトしていった。








「……何? どーしたの? おれの顔じっと見て」

 ベッドに横になり、毛布をかけられた日向子は、半分だけ毛布から顔を出して、水さしを取り替える蝉を見ていた。

「あの……わたくしを助けて下さったのは、蝉様……でしたのよね?」

「おんなじ質問七回目だよ? 日向子ちゃん」

「申し訳ありません……助けて頂いて本当にありがとうございます」

「どーいたしまして☆ ま、ゆっくり休んでね」

 蝉は明るい笑顔を残して部屋を出て行った。

 日向子は毛布から手を出して、じっと見た。

 強く握られた圧迫感も……唇の感触も、リアルに思い出すことができるのに。

「あれは……夢……?」


 問掛けに答える者は誰もいなかった。












《つづく》
「……万楼様?」

「……」

「あの」

「……」

 憂い顔の美少年は首を横に振った。

「ごめん。今のボクに優しくしないで」

「……」

 来る時よりも閑散とした、ローカル線の車内は、とても静かだった。

 一番端の席に座って、銀色のポールに頭を預けた万楼はほとんど口を開かなかった。

 ただ時折、呟くようにこんな独り言を吐き捨てるばかりだ。


「……最悪だ。……ボクは、最悪だ……」


 日向子はただその隣に座って、見つめていることしかできなかった。









《第3章 林檎には罪を 口付けには罰を -impatience-》【5】








「あ、おかえり……」

 外から部屋の灯りを確認して、いることはわかっていたのだが、ひょこっと自室から顔を出した蝉を見て、有砂は鼻で笑った。

「……また、随分早いお帰りやな。一泊二日て、中坊でももう少し頑張るんちゃうか」

「だって二日も家空けたら、よっちん寂しくて泣いちゃうかなぁって」

「……もっかい叩き出したろうか」

「冗談だってば~」


 有砂は鬱陶しそうに蝉を睨んで、それから、

「で?」

 短く問いかけた。
 その不親切なクエスチョンの意味を察して、蝉は答えた。

「おれはスノウ・ドームが大好きだった……ケド、今はheliodorも負けないくらい大切だし……どっちもおれの家族みたいなものだと思う。
それともう一人……おれのこと、家族って言ってくれるあの子のことも……」

 蝉は目を細めて、大切な笑顔を思い浮かべる。

「今はもう、『釘宮』と切り離しても守りたいと思ってるから」

「……で?」

 有砂は再度繰り返した。
 蝉は小さく頷く。

「中途半端はしない。全部本気で、命がけで守るよ。……だから、heliodorのために日向子ちゃんを危ない目に遭わすのはやっぱりヤだ」

 そして有砂が何か言う前に、続ける。

「あーっと……代替案はまだ特にナイんだケドさぁ……マジで超真剣に考えてっからー、ちょっと待ってくんない? ……ダメ?」

 ぱちんと顔の前で掌を合わせて「お願ーい」とやりながら、恐る恐る有砂の顔を覗き込む蝉。
 有砂は溜め息をつく。

「……下手の考え休むに似たり」

「うわっ、何それっ……おれの努力をあっさり否定ですか~!?」

「アホが無理してどうなるもんでもないやろ……そういうことは得意な人間に任せとけばええ、ゆーことや。
幸いうちのバンドには頭脳明晰な参謀がおるからな……そろそろ何か言ってくるやろ」

 蝉が「そっか」、と短く呟いて、ある意味ほっとしたような、拍子抜けしたような顔をしていると、有砂は更にこう続けた。


「守りたい、と思う人間が自分だけやと思って油断せんことや……。
お前の大事なもんを、お前と同じくらい大事にしたい奴も中にはいてる」












「……じゃあね」

 最寄り駅で先に降りようとした万楼の色白な手首を日向子は、とっさに掴んだ。

 万楼は、

「……優しくしないでってば」

 うつむいて呟いた。

 日向子は慎重に言葉を選んで語りかける。

「万楼様……わたくしを助けることができなかったことを気になさっているのなら……」

「ごめん……次会う時には普通に戻っておくから。今日はこのままバイバイにして」

 日向子は仕方なく手を離し、万楼はしまりかけたドアをくぐって電車を降りてしまった。

 窓から心配そうに見つめる日向子を連れて電車が行ってしまうまで、万楼はホームにたたずんでいた。

 そして電車が見えなくなると同時に、万楼はしゃがみこんだ。


「最悪だ……蝉がいなかったらお姉さん死んでたかもしれないのに……」

 苦しそうにギュッと目をつぶって呟いた。

「……頭の中が蝉へのヤキモチでいっぱいなんて最悪だよ……!」








 大きな鏡の前で少女がたたずんでいた。

 彼女の普段の服装からは想像も難しいような、まるで商売女のような露出の高い黒いワンピースを着ている。

 長い黒髪にはゆるゆるとウエーブがかかっていて、今しがたほどいた三編みのクセがしっかりと残っている。

 鏡の前で少女は少しずつ、自分を着替えていく。

 眼鏡をコンタクトに変えて、化粧っけのなかった顔に彩りをのせていく。

 完成する頃には、鏡の前には少女はいなかった。

 彼女は十分に成熟した身体と色香を持つ大人の女だった。


「……いづみ。私、ちゃんと綺麗?」

「うん……うづ姉は誰よりも綺麗だよ」


 何故か寂しそうに微笑んで、制服姿の快活そうな女子高生は、敬愛する「姉」にファーのコートをかけた。

「……でも私が何をしているか知られたら、ゼン兄に嫌われちゃうね」

「うづ姉……」

「でもいい、私は嫌われてもいい。ゼン兄が自分のやりたいことを好きなように出来るようになるんだったら、私はそれ以上なんにも望まない」

 華やかに着飾ったうづみは、迷いのない目で鏡の中の自分を見つめた。

「ちづみは私を白雪姫と呼んでくれたけど……悪魔と契った私はもう、魔女でしかないわね」

「うづ姉!」

 いづみはうづみにすがりつくようにして抱きついた。

「大丈夫……何があっても味方だからね」

「……ありがとう。もう行かなきゃ……そろそろあの人が迎えに来る」

「……よりによって、あんな人と……本気で結婚するつもりなの?」

 訴えるような目で見つめるいづみに、うづみは微笑んだ。

「他になかったから。スノウ・ドームを救済できるだけの資本力がある知り合いなんて」

 うづみは化粧台の引き出しから、小さな黒い箱を取り出した。

 開くと中には、複雑な細工で林檎の意匠をあしらった、シルバーのリングがある。

「ああいう人だから、取り入るのも難しくなかったしね」

 箱の蓋を開いたところには、やはりシルバーでメッセージが記されている。


《Dear my SNOW-WHITE

From H.SAWASHIRO》


 契約の証を左手の薬指にはめた「魔女」は、全ての罪を背負って今夜も安息の森を出て行った。












「お迎えが遅くなって申し訳ございません……お嬢様」

 車から降りて恭しく礼をする雪乃を、日向子は黙ってじっと見つめた。

「……お嬢様?」

「……ごめんなさい。なんでもないの」

 日向子はちらり、と自分の手首を見つめ、小さく溜め息をついた後車に乗り込んだ。

 あれが雪乃だったと考えるにはあまりにも現実離れしている。

 流石の日向子も、きっと夢を見ていたのだろうと思い始めていた。

「……お顔の色が優れないようにお見受けしますが、何かございましたか?」

 運転席からの問掛けに、日向子は少し動揺した。

 あんな危険なことがあったと勘付かれたら、散々怒られて父に告げ口されてしまうかもしれない。

「な……何も、何もありませんでしたわよ!」

「左様でございますか……では私の考えすぎということなのでしょう」

 雪乃があまりあっけなく引き下がったので、日向子は少し驚いた。

 雪乃は静かな口調で続けた。

「昨夜見た夢が気にかかっていたのやもしれません」

「……夢?」

「お嬢様が湖に落ちる夢です」

「……えっ」

 驚いて、日向子は言葉を失った。

「慌てて水に入ってお助け致しましたが、ご無事を確認できるまでは生きた心地が致しませんでした」

「雪乃……」

 今日の雪乃は、お説教以外では無口な彼にしては珍しく、少々饒舌なようだった。

「目が覚めた後も、あれはまことに夢だったかと疑いを抱いてしまうほど生々しい夢だったもので、よもやお嬢様の身に何かあったのではないかと心配しておりましたので」

 その言葉を聞いて、日向子はなんとなく胸がいっぱいになった気がした。

「……わたくしも、そのような夢を見たような気がしますわ」

 思わずくすくすと笑ってしまう。

「夢の中でまで雪乃は仕事熱心ですのね……あんまり無理はなさらないで」

「お嬢様こそ夢の中でまで無茶をなさらないで下さい。どれだけ心配させれば気がお済みですか」

「……ええ、ごめんなさい」

 今度は日向子があっさりと引き下がり、雪乃を少し驚かせた。

 日向子は少し間をおいて、

「この間、雪乃にわたくしの送迎を他の方に代行してもらってはどうかと相談したことがあったでしょう?」

「……はい」

「誰かに頼まれたと雪乃は思ったみたいですけれど、本当はわたくしがお願いしたのよ」

「……お嬢様が、ですか?」

「わたくしのこと、雪乃の負担になっているのではと思っていたから……。
ちょうど今お仕事を探している方がいらっしゃったのでお願いしてみたの」

 日向子はさながら悪戯に失敗した子どものように笑っている。

「実はその方にも断られてしまったのですけれど」

「……断られた……のですか?」

「ええ、自分には荷が重いからと。
もし雪乃もそのほうがいいと思っているならもう一度お願いするつもりでしたけれど、多分また断られてしまったのではないかしら。
確か……わたくしのようなややこしい女の面倒を好んで見たがる物好きは、大変貴重だから大事にするように、というようなこともおっしゃっていましたわ」

「……」

「雪乃?」

「……それは……また随分な物言いをする方がいたものですね」





 日向子をいつも通り送り届けた雪乃は、眼鏡を外すと、思いきりシートを後ろに倒して寝そべって伸びをした。

「……あ~っ……危なかった……今日という今日は超ヤバかった……」

 いつ感情が氾濫して仮面にヒビが入ってしまうか気が気ではなかった。

「……あの子って……あんな可愛かったっけ……?」

 もしかしたらこっそり口許がにやけてしまってたのではないかと思うくらいに。

「あいつもあいつだし~……まったく、ややこしい性格してんのどっちよ……」

 「雪乃」モードをオフにして、車の天井を見上げながら、思う存分蝉は笑った。

 笑って、笑って、気が済むと、ゆっくりシートを起こした。

 携帯を、グローブボックスの中のプライベート用携帯と持ち換える際、蝉はラミネートのケースに入った古い写真を一緒に引っ張り出した。

 小さなピアノの前で撮った、いかにもヤンチャそうな明るい笑顔の少年と、それを見守る優しそうな年輩の男性の写真。

 蝉はそれを懐かしそうに見つめながら、囁くように言った。

「……お義父さん……おれ今かなり、生きてて良かったって思う……マジで、そう思うよ」










 灯りもつけない真っ暗な部屋の中で、パソコンのモニターだけが光を放っている。

「絶対に……あなただけを不幸にはしないからね」
 涙ぐんだような声と、カタカタとキーを叩く音が闇の中に溶けていく。

「それに……あの女だけ幸せになんてさせてたまるもんか」


 渦を巻く負の感情とは裏腹な、無機質な文字が打ち出される。



《同士諸君

 己の立場を利用して

 heliodorに接近し

 メンバーに必要以上に

 干渉する傾向にある

 危険人物を特定した

 蓮芳出版の記者

 「森久保 日向子」の

 粛清をここに提案する》


「……これで、いいんだ……」


 暗い微笑を浮かべて、少女は最後に自らの肩書きと名を、そこに記した。


《D-unite 会長 イヅミ》








 今新たなる危機が、日向子に迫ろうとしていた。














《第4章へつづく》
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