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麻咲による乙女ゲー風(?)オリジナル小説ブログ

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「日向子さん……こんな時間にどうしたんですか?」

「申し訳ありません……玄鳥様、わたくし今夜はなんだか眠れませんの……」

「そうですか……実は俺もなんです」

「まあ……玄鳥様もですの……?」

「壁一枚隔てた部屋にあなたがいるんだと思うと、胸がドキドキして……」

「……わたくしも、同じ気持ちですの」

「……日向子さん……!」

「……玄鳥様……! がばぁっ、ぶちゅー……ってそんなのマジで絶対無理っ!! ありえなーい!!」

「ぶちゅー!? がばぁっはまだしもぶちゅー!? そんなことになったらボクはもう玄鳥と口きかない!!」

「おれはそんな、よっちんみたいなハレンチな子に育てた覚えはないぞっ玄鳥!!」

「あんなに真面目でいい子だった玄鳥が……有砂2号に……ううう」

「いや、今ならまだやり直せるっ! 玄鳥! 怒らないから戻っておいでっ、おれたちのところへ!!」

「玄鳥ーーっ!! カムバーック!!」





「……で? 救急車と霊柩車、どっちに乗りたいんや?」









《第4章 黒い寓話 -inferior-》【2】









 外野がファミレスで半狂乱で騒いでいた頃。
 当の玄鳥は実際、眠れない夜を過ごしていた。

 しかしそれは、周りが想像するほど色っぽい理由からではなかった。







「まあ、玄鳥様」

 日向子が後ろから声をかけると、玄鳥は、ドアノブにかけていた手を引っ込めて、ぎくっとばかりに肩を揺らして振り返った。

「あっ……」

「お出掛けになってはいけませんわ」

「いや……あの、一回だけ、ちょっと自宅に……」

「そうは参りませんわ。
 紅朱様からは、この3日間、玄鳥様もわたくしも一歩も部屋から出ないように、誰が来ても部屋に入れないように、と申し使っておりますのよ」

「そんな無茶な……」

 ほとんど過剰と思われる紅朱からの命令に、玄鳥は頭を押さえた。

「3日後は次のライブの当日じゃないか……兄貴はそれまで練習するなって言うのかよ……」

 玄鳥が夜更けにこっそり玄関へ向かった理由は、やはり帰宅してギターの練習をするためのようだった。

「いけませんわ……まだお倒れになってから半日も経っておりませんのに」

「倒れた……って、ただの睡眠不足と疲労ですよ。ライブを途中退場したのは俺の責任だし、申し訳ないと思ってます。
だからこそ練習を積んで次のライブでは失敗を取り返さないと。
それに日向子さんだってお仕事があるんじゃ……」

「いいえ、編集長様の許可を頂いて『玄鳥様に3日間密着取材』ということになっていますので」

「密着……ですか」

「密着です」

「密着……」

「あの……お顔が赤いですわ」

「えっ、いや……別に変な意味ではなくてっ」

 玄鳥は自らを落ち着けようとするかのようにふーっと息を吐いて、ぱしぱし、と自分の頬を叩いた。

「……確かに、たまにはいいのかもしれませんね。ギターから離れて気分転換っていうのも……」


 今だけ。
 この3日間だけ。

 ギターのことは忘れよう。

 日向子と過ごせる時間を大切にしよう。

 少なくともその時の玄鳥は本心からそう思っていた。













「これで少なくとも3日は、安全だろう。
外部との接触もないし、何かあった時はあいつが日向子を守れる」

 紅朱はふっと口の端を持ち上げた。

「時間稼ぎにゃ十分だ」

「ご協力ありがとうございます……紅朱さん」

「まあ、まさに棚からボタモチってやつだがな」

 コーラが入ったグラスをあおる紅朱に、連れの女は深く頭を下げた。

「本当に……ありがとうございます」

 深夜、カフェからバーに切り変わったいつものあの店のカウンター。
 肩を並べる二人は、どちらもここの常連で、どちらも日向子と縁の深い二人だったが、あまりに意外な取り合わせだった。

 一人は紅朱。

 そして、もう一人は……美々だった。

「でもいいんですか? 他の皆さんには説明しなくて……特に玄鳥さんは知っていたほうがいいんじゃ……」

「綾は隠し事がこの銀河系で一番ヘタクソな奴だ……いくら日向子でも何か感じちまうかもしれねェ。
日向子には知らせたくねェから、あんたは俺に相談してきたんだろ?」

「そうですね……出来ることなら日向子には知られたくないです。
わざわざ怖い思いや不快な思い、することないですから……」

「俺も同じだ。だから秘密がバレるリスクは極力小さくしたい」

 沈んだ表情でうつむく美々に、紅朱も笑みを打ち消して真剣な顔付きになった。

「……まだ届いてんのか? 例のメール」

「はい……1000通、2000通って数が毎日……送信先は違っても内容はほとんど同じ。
非会員制のネットカフェや公共の施設のパソコンを使ったりしてるみたいで……集団でやってることは間違いないですけど、どれだけの人間が関わってるのか特定もできません」

 紅朱は不愉快そうに、いささか手荒にグラスをテーブルを叩き付けるように置いた。

「こそこそと……卑怯者が。
『森久保日向子』をheliodor企画の担当から外してください。
外さなければ蓮芳出版の雑誌はもう二度と買いません……か。
ふざけたことぬかしやがる。あいつが何かしたってのかよ」

「1通、2通なら無視できてもこれだけの数じゃ……編集長も黙殺できないかもって言ってます。
早くなんとかしないと……日向子は降ろされます」

 紅朱はやり場のない苛立ちを持てあましたように、拳を握り締めた。

「……んな馬鹿な話が許されるわけねェだろっ」

 美々は、沈んだ顔付きのままで、それでもほんの少し微笑んだ。

「日向子のために、そんなに怒ってくださるんですね……」

「……俺はheliodorのリーダーとして、日向子を高く買ってるんだ。あいつは思った以上に変わった奴のようだからな」

「……誉めて、下さってるんですよね?」

「ああ。すごいんだ、あの女」

 紅朱は皮肉を言ったつもりは欠片もなかった。


「あいつの取材を受ける前と受けた後で、メンバーの顔が全然違うのはなんでだろうな……三人とも邪魔な荷物を一個、手放したような顔してやがる。あるいは……日向子がそれを背負うのを手伝ってやってんのかもな」

 紅朱は普段あまり人には見せないような、穏やかな優しい微笑を浮かべた。

「あいつはそのうち……俺や綾の荷物も、半分持ってくれんのかな……?」
















――綾くんはすごいね! また100点だね

――浅川がいてくれれば体育祭もうちのクラスがぶっちぎりだよな?

――お前、高校でも生徒会長やってんの? 流石だよなぁ。

――浅川くん、復学してはくれないか? 君程の逸材は学部中見渡しても二人といないだろうよ。

――今のheliodorの要は、ギターの玄鳥だな。あいつはマジで半端なく巧い!





――紅朱じゃなくてよかったぜ。お前みたいな勝ち目のない完璧な弟がいたんじゃ、兄貴として肩身狭すぎるもんな~?










「……違……う……」

 夢現で呟いた、自分の声で玄鳥は目を覚ました。

 意識が戻ってからも、垂れ流されるように独り言が口をついた。

「……違う……ちがう……」

 無意識に、ぎゅっと両手の拳を握り締めた。

「……俺は……まだ……勝ててない……」

 毛布がずるずるとベッドの下に落ちて溜る。

「練習……しなきゃ」










 ダイニングテーブルに朝食が並んでいる。
 ピーナッツバターを塗ったトースト、半熟なハムエッグ、トマトを添えたグリーンサラダ、それに野菜がたっぷりの温かいスープ。

「お口に合いますでしょうか?」

 日向子は、あのクリーム色のフリルエプロンをつけて、紅茶の準備をしながら玄鳥に尋ねた。

「はい……おいしいです。朝から日向子さんの手料理が食べられるなんて、俺、幸せ者ですよね……」

 玄鳥は実際、言葉通りとても嬉しそうではあったが、

「お顔の色、あまりよろしくありませんわ」

 日向子は心配になった。

「いや、平気ですよ……昨夜もあれからちゃんとすぐに寝たんです……」

 そうは言いながら、玄鳥は完全に欠伸を噛み殺しながらトーストをかじっている。

「枕が合わなくていらっしゃるのでは?」

「そんな、とんでもないです……日向子さんこそ、俺が寝室に居座っちゃってるから、ピアノ室で来客用の簡易ベッドで寝てるんでしょう?
今夜はもう交代にしませんか??」

「いいえ、わたくしは今のままで構いません。伯爵様のタペストリーを眺めながら就寝するのもなかなか素敵ですのよ」

「あはは……日向子さんらしいですね……」

 玄鳥はなんとも複雑な顔をしながらもとりあえず笑っておくことにしたようだ。

「じゃあせめて明日の朝食は俺に作らせて下さい。それこそお口に合うかわかりませんけどね」

「まあ、よろしいんですの?」

「はい……もちろん」


 初々しくも和やかな雰囲気に包まれる食卓。
 だがそれを打ち破ろうとするかのように、インターフォンのお呼びがかかる。

「まあ……こんな時間に来るのはきっと雪乃ですわ」

 日向子はいたって呑気にモニターに映し出される訪問者を確認しに行き、そして、一気に顔色を変えた。

「まあ、大変……!」

「どうしたんですか? 雪乃さんじゃなかったんですか?」

「いえ雪乃ですわ……でも一人ではありませんの」

 日向子は玄鳥を、とてもとても困惑した瞳で見つめた。

「……お父様が、一緒ですの」

「おとっ……っ、ゲホッ」

 玄鳥は思わずパンくずを喉につまらせ、目を白黒させる。














「応答がございません。お部屋にはいらっしゃらないのでしょう」

「こんな朝早くから……か?」

「お仕事の都合で早くお出掛けになることも最近では特に珍しくはございませんので」

「……ならば、出直そう。戻るぞ、漸」

「……はい。先生」

 いかにも気難しそうな初老の男はしかつめらしい顔をしながら、踵を返し、連れの先に立ってマンションを後にする。

 連れの眼鏡の青年は、気付かれないように密かな声音で「今回だけですよ、お嬢様」と呟いて、少しだけインターフォンのカメラに向けて会釈程度の礼をして、それに続いた。











「……大丈夫、どうやら諦めてお帰りになったみたい」

「よかったんですか? お父さんに居留守なんか使って……とか言ったところで、今部屋に入って来られたら確実に俺は殺されると思いますけど……」

「今はどなたも入らせないお約束ですもの、仕方ありませんわ」

 軽い罪悪感を覚えたのは確かだったが、日向子は降りきるように言った。

「そうでした……早く紅茶をご用意しなくてはいけませんわね?」







 








《つづく》
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