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麻咲による乙女ゲー風(?)オリジナル小説ブログ

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 《heliodor》ベース・万楼。
 バンド内最年少で経験は浅く、若干荒削りな面もあるが、骨太で力強く存在感のあるプレイが印象的な、将来性を感じさせるベーシストである。

 天使のような繊細で甘いルックスの持ち主でもあり、比較的新規の女性ファンからは「マロ様」の愛称で呼ばれる。

 一方で古参のファンからは、半ば「伝説」化している先代ベーシストとの比較をもって辛口に評価を受けることも少なくない。

 本人はこれについて、以下のように発言している。


「それでいいよ。いつか人魚姫が会いに来たら、ボクはいつでも王子様を譲るつもりだから」







《第1章 人魚の足跡 -missing-》【1】









「月並みな質問ばかりで恐縮ですが、いくつかお伺いしてよろしいですか?」

「うん、いいよ。でもね、ボクもお姉さんに質問していい?」

「はい? わたくしに、万楼さんが質問をなさるんですか??」

「お姉さんがボクにひとつ質問をしたら、ボクもお姉さんにひとつ質問をするんだ。ダメかな?」

「それは構いませんけれど……」

「決まりだね」


 heliodorのリーダー・紅朱から正式に取材の許可を得た日向子は、まず最初に各メンバーへのパーソナルインタビューを行うことにした。
 今月はまずベースの万楼、ドラムの有砂、キーボードの蝉からそれぞれ話を聞くつもりで、その中で最初に取材の予約がとれたのが万楼だった。

「このお店をよくミーティングに使われてるそうですわね?」

「それが最初の質問? そうだよ。ボクが入る前からだから聞いた話だけど、ここのカフェは元々玄鳥のお気に入りだったらしいんだ。お姉さんも好きだったなんてびっくりだね」

 そこは日向子がよく美々と来る店……あの、紅朱たちと初めて遭遇した店だった。

「ボクたちが集まるのはだいたい夜が多いから、お姉さんたちと一緒になる機会は少なかったかもしれないけど、いつかここで会っていたかもしれないなんて、すごい偶然だよね」

 そう言いながらメロンソーダをストローでかき回し、そして、ちらっと日向子を見る。

「……運命を感じない?」

「ええ、本当に。ではまたわたくしの番ですわね」

「……流されちゃった」

「はい?」

「なんでもないよ」


 万楼はそしらぬ顔でマロンプリンをスプーンですくう。
 万楼の目の前にはメロンソーダとマロンプリンの他にも、洋梨とチェリーのカスタードパイ、ミントを添えたチョコレートムース、熱々の特製スイートポテト、そして単体でも迫力十分なジャンボフルーツヨーグルトパフェがテーブル狭しと並んでいる。

 一方の日向子はレアチーズケーキと紅茶を頼んだだけだったが、その光景を見ているだけで胸がいっぱいになりそうだった。


「スウィーツがお好きですのね?」

「うん。大好き。みんなが色々言うから普段はこんなに頼めないんだけどね。本当に、ここのは全部おいしいんだ。そういえば、そのチーズケーキは玄鳥も好きだって言ってたよ」

 ぷるんとしたプリンを幸せそうに口に運んで、飲み込んだ後、万楼はじーっと日向子を見つめる。

「食べ物の好みが合う人って相性がすごくいいって聞いたことあるよ」

「まあ、そうですの? なんとなくわかるような気も致しますけれど」

「それじゃあボクの番。お姉さんの好きなタイプはどんな人? 優しい人? 真面目な人? 頭が良くて運動神経も良くて、しかもすっごくギターが巧い人とかいいと思わない?」

「伯爵様です」

「……やっぱりそうかぁ……」


 何かを考え込むような顔付きでパフェを解体し始めた万楼。一方、日向子はあくまでマイペースに続ける。

「では、万楼様がheliodorに入ったきっかけをお聞きしても?」

 万楼は大きな瞳をはっと見開いてきらきら輝かせながら半分を身を乗り出すようにして答えた。

「玄鳥だよ! 玄鳥がみんなにボクを紹介してくれたんだ。それに玄鳥はね……」










「おかしいですわね……」

「どうしたの? 日向子。珍しく難しい顔して」

 デスクに戻って、ICレコーダーに録音した万楼へのインタビューの内容を聞き直していた日向子の顔は、確かに美々が言うように複雑な表情を描いていた。

「わたくし……今日は万楼様にインタビューさせて頂きましたのよ」

「うん。それで?」

「それなのにわたくし、何故か玄鳥様のことに詳しくなってしまいました」

「はあ? なんなの、それ」

 美々は日向子からイヤホンを受け取って、録音内容を確認した。
 半分も聞き終わらないうちに、美々の表情もまた日向子のそれと同じように転じていった。

「……いくらなんでも、これじゃあちょっと記事にはできないね」

「やはりそう思われますか……? わたくし、もう一度お話を伺ってみます」











「玄鳥のことは、ボクがちゃんとアピールしてきたからね」

「アピール??」

「うん」

 練習スタジオに現れた万楼の、輝く満面の笑みを見ながら、玄鳥は嫌な予感が全身につき抜けるのを感じていた。

「お前、日向子さんに変なこと言ってないよな?」














「……というわけで、とっても変ですのよ」

「……左様でございますか」

 その頃日向子はいつものように帰宅中だった。
 いつものように今日の出来事を一方的に報告されているのは、ドライバーの雪乃である。

「一体なぜ万楼様は玄鳥様のお話ばかりなさるんでしょうか……?」

「さあ……私には何とも」

「そうですわよね……雪乃に聞いてもわかるわけないですわねぇ……うーん」

 ちょうどマンションの前に停車した車から降り、日向子はほとんど上の空の状態のまま「どうしてかしら」と呟きながら、ふらふらと部屋に帰って行った。


 それを見送った「雪乃」は、一つ息をついたかと思うと眼鏡をさっと外して胸ポケットに突っ込んでハンドルに突っ伏した。

「あ、い、つ、ら~……あんだけ念押したのに。うちのお嬢様にみすみす悪い虫つけさすわけにいくかっての……」







《もしもし、日向子ちゃん?》

「はい、森久保日向子です」

 就寝間際に日向子の携帯に着信したのは、意外な人物からのコールだった。

《おれおれ、heliodorの蝉くんです♪》

「まあ、蝉様からお電話を頂くとは思いませんでしたわ。ありがとうございます」

 パジャマ姿でベッドに横座りしたまま、日向子は電話にも関わらず深く一礼した。

「取材の日程についてのご連絡でしょうか?」

《いや、ごめんね。今日はそーゆーことで電話したんじゃなくてさ、万楼のことでちょっと》

「万楼様ですか?」

《んー、あのさ、今日は万楼の取材だったんだよね? あいつさ、なんかめちゃめちゃ玄鳥の話してこなかった?》

「まあ、どうしておわかりになりましたの!?」

《やっぱな~……だと思ったんだよな~》

 どうやら何かを知っていそうな蝉に、日向子はそわそわし始める。

「蝉様はご存じですのね? 万楼様があのように玄鳥様のことばかりお話になるわけを」

《んー……誰にも言わないんだったら教えてあげてもいいんだケド》

「はい。もちろん誰にも口外致しませんわ」

 電話にも関わらずなんとなく身を乗り出す日向子。

《実はさ……》

 蝉はまるで周囲を気にするかのように声のトーンを一段階落として、ゆっくりもったいぶるように告げた。

《万楼と玄鳥ってデキてるから》

「……」

 日向子は頭の中でゆっくりと、今聞いた言葉を一文字ずつスクロールさせた。

「あの……できてる、とはどういうことでしょうか??」

《つまりラブラブってことなわけよ。わかる? バンド内では一応公認なんだケドさ、やっぱ対外的にはちょっとヤバイんだよね~。だから内緒にしてんの》

 日向子は早口で話す蝉の言葉を一生懸命拾いながら頭の中でひとつひとつ理解しようと試みる。

「……あの~……間違っていたら申し訳ないのですけれど、つまり万楼様が玄鳥様のことばかりお話されるのは、玄鳥様のことがとてもお好きだからということでしょうか?」

《そう!!それ!正解! もう全くありんこ一匹入れないくらい超ラブラブだから!》

「はあ……」

 日向子は喉に引っ掛かった小骨が取れないような顔付きで考え込んだかと思うと、それがいきなりするっと取れたような晴れ晴れとした笑顔に転じた。

「ありがとうございます、わたくしどうしたらいいのかわかりましたわ!」

《え? なにが?》

「蝉様、大変ためになるアドバイスを頂きまして、本当に助かりましたわ」

《え?え? アドバイスって?》

「それでは今夜はもう遅いですし、わたくしはこれで失礼させて頂きます。おやすみなさいませ、蝉様」

《え、ちょっと、もしもしー……?》










「おはようございます、玄鳥様」

「はい、おはようございます」

 出会い頭に、お互いに不自然なほど深いおじぎを交す日向子と玄鳥。

「よいお天気ですわね」

「そうですね。小春日和って感じですよね。なんか嬉しくなっちゃいますね。ははは……」

 ちょうど横を通った有砂が何か言いたそうな顔をしていたが、一つ息を吐いてそのまま通り過ぎていった。

 今日は日向子があらかじめ紅朱からリストアップしてもらっていた「見学OK」の練習日だった。

「今日はよろしくお願い致しますわね」

「はい、こちらこそ。……あの、変なこと聞いていいですか?」

「なんでしょうか?」

「……その、万楼にインタビューした時、あいつ妙なこと言ってなかったかなって……」

 玄鳥が万楼の名前を口にした途端、日向子は何故か感心したように首を何度も上下した。

「やはり万楼様のことをお気にかけていらっしゃいますのね」

「え?」

「万楼様と玄鳥様はらぶらぶでいらっしゃるのですよね??」

「……はい?」

「わたくし、何も隠されることはないと思いますの。殿方同士が仲良くされることは別に恥ずかしいことではないですもの!」

「あの、すいません……日向子さん、それは一体……」

 だんだん腹でも痛いような顔付きになってきた玄鳥に、日向子はいつものように曇りのない今日の天気のような笑顔を見せた。

「お二人は『できて』いらっしゃるのでしょう?」

「でき……」

 玄鳥は一瞬意識が宇宙の彼方に放り出されるのを感じた。

「……な、何言ってるんですか!? 薮から棒に!!」

「まあ、慌てて否定なさることありませんのに……」

「否定します!! 断固として否定します!!」

 顔を赤くして抗議する玄鳥に、日向子はますます楽しそうに微笑んだ。

「ご謙遜なさらずに。わたくしから見ても、お二人はとても仲がよろしく……」

「いや、だからそれはッ、あくまで同じバンドのメンバーとして……!」

「はい、同じバンドのメンバーとしての深い信頼関係が『できて』いらっしゃるのですよね?」

「……え? あ、それはまあ……」

「ですから、万楼様は玄鳥様のことをよく知っていらっしゃいましたのね。
ということは、逆に万楼様について知りたければ、玄鳥様にお伺いすればよいのではないかと思いまして……」

 いきなり予想外の急カーブを切った日向子に呆然としていた玄鳥だったが、続く言葉で一気に我に返った。

「練習後、もしご予定がないようでしたら、お食事でもしながらお話をお聞かせ頂けませんか?」






「はい……! 喜んで!!」












《つづく》
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