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麻咲による乙女ゲー風(?)オリジナル小説ブログ

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 結局、heliodor+αのクリスマスパーティーは、言い出した本人が一人欠席という形で、なんとも微妙な空気のまま開宴された。

 途中で何故か反対方向へ向かう紅朱のバイクとすれ違った玄鳥たちはもちろん、いきなり意気消沈した日向子を見た他のメンバーやうづみもすぐに異変を察した。

 詳しい理由を話さず、自分のせいで紅朱を怒らせてしまったと、ひたすら謝る日向子を問いつめることは誰にもできなかった。

 ただ、波乱の聖夜はまだ終わったわけではなかったことを誰もが感じていた。









《第10章 吸血鬼 -baptize-》【4】










「いいんですよ、こういうことはうちじゃ俺が一番得意なんですから」

「でも……」

「任せて下さいよ」

 空になった皿に手際よく、そして綺麗に新しい料理を盛り付けていく玄鳥は、確かに主婦を通り越して一端のシェフのようだった。

「日向子さんこそ洗い物なら後で俺がやりますから、ピアノ室に戻って大丈夫ですよ」

「まあ、そういうわけには参りませんわ……それに」

「……働いてるほうが、気が紛れる……とか?」

「……」

 黙ってしまった日向子に、玄鳥はそっと微笑みかける。

「……女心って難しいけど、俺、日向子さんの考えていることだけなら最近少しわかるようになったみたいです」

「……玄鳥様」

「少し話しませんか……ここのマンションは、屋上に上がれましたっけね?」










「ちょっとナーバスなところもあったと思いますよ……今日は兄貴が蝉さんや粋さんに出会った日と同じ、聖夜なんですから」

 外の空気を吸って来るとだけ言って上着を羽織って出た二人を、誰も問いつめず、引き留めなかった。
 玄鳥の意図はわかりきっていたし、玄鳥がしなければ多分、違う誰かがそれをしたに違いない。

 そしてそれをするのはこの場合、玄鳥が最適任者であろうことも明白だった。

 冴え冴えした夜空を見上げながら、二人は何もない屋上の真ん中にたたずんでいた。


「兄貴はいつも、大事なものを『抱え込み』たがるんです……」

「……そう、ですわね」

 日向子は思い出す。

 紅朱は大事なものを『抱え込む』。
 逃がさないために。
 失わないために。

 縛り付けてでも留めようと。

 そしてそんな紅朱の最も手放し難いものが、今目の前にいる青年なのだった。

「……だけど、正直……兄貴の伯爵に対する感情の正体は、俺にも掴めません……どうしてあんなに嫌っているのか。昔は違ったのに……」

「そう、なのですか?」

「はい……俺がmont suchtを聞き始めたのは兄貴の影響でしたからね……」

 今の紅朱からは想像も出来ない事実だ。

「不思議なもので、本気で音楽の道に進みたいと言い出したのと同時期に、兄貴は高山獅貴を毛嫌いするようになったんです」

 日向子は記憶を掘り起こして考える。

 以前、玄鳥は言っていた。紅朱が音楽の道に進むと言い出したのは中学の時だと。

 中学の時といえば、紅朱も確かターニングポイントになったと語っていた時期だ。
 玄鳥の本当の父親が訪ねてきて、以来紅朱は玄鳥が本当の父親を選ぶことをひどく恐れてきたという。

 そして、もし自分が違う道を選んでいれば……とも言っていた。

 違う道、とは、音楽以外の道……という意味なのだろうが、言われた時にはどういうことか理解できなかった。

 しかし今改めて考えてみると、ある一つの解釈が生じる。


 玄鳥はいつも紅朱の後ろについてきた。

 紅朱がギターを手にしたことで、玄鳥もまたギターを手にした。

 紅朱が始めたから、玄鳥もそれに続いたのだ。

 紅朱がそのことを悔やんでいたのだとしたら、玄鳥が音楽を通して実父に近付いてしまう、と思ったからではないか?


 もしそうならば結論は出る。

 玄鳥の父親はミュージシャンなのだ。

 それも、恐らくは大物で……玄鳥が憧れを抱くような人物。

「……まさか……」

 胸がドキドキしていた。

 あまりにも現実離れしている。

 だが、現実であれば全てが符合する。

「……日向子さん?」

 いぶかしげに名前を呼ぶ玄鳥をじっと見つめる。

 鼓動が止まらなくなる。

「どうしたんですか?」

 何か答えなければと思うのだが、何も出て来ない。

 玄鳥は一歩日向子に歩み寄った。

「……兄貴のこと、何か心当たりがあるんですか? ……それなら教えてくれませんか??」


 知りたがっている玄鳥。

 けして知られたくない紅朱。

 玄鳥には知る権利がある。

 だが少なくともそれを第三者の口から語ることはできない。

「……わたくしには何も申し上げられません」

 ましてや、確証すらないのだ。

「ただ……どうか忘れないで下さい」

 白い息を吐きながら、日向子は左手の薬指を玄鳥に向けてそっと差し出した。

「ゆびきり、しましたわよね?」

「……ええ」

 玄鳥は優しく微笑し、自身の小指をそっと絡ませた。

「……俺は、あなたを悲しませない」

「わたくしは、玄鳥様を何があっても信じますわ」


 再び結ばれる大切な約束。

 冷えきったお互いの指にはっとする。

「……そろそろみんなのところへ戻りましょうか」

「そうですわね……」






 部屋へと戻る道すがら、二人はほとんど同じことを考えていた。

 「真実が知りたい」

 それがいかに残酷で、無慈悲な現実であったとしても……。











 幾度目かのチャイムで、ようやく部屋の主が顔を出した。

「っ」

 つり目を大きく見開いて、

「なっ、おま……!」

 驚愕に声を失っていた。

「申し訳ありません、アポイントメントを取ろうと思ったのですけれど、事前に連絡しても今のあなたは会って下さらないだろうと、蝉様がおっしゃっていましたので……」

 昨日の今日ということもあり、おまけにおよそ人前には出られないような年季の入った寝間着のジャージ姿で髪もボサボサの紅朱は、非常にバツの悪い表情で日向子を見つめていた。無言のままで。

「……紅朱様はわたくしの顔など見たくもないとお思いでしょうけれど」

 日向子はそんな紅朱を真っ直ぐ見つめていた。

「わたくしには、これで本当に紅朱様に嫌われてしまったとしても確かめたいことがあります」

 日向子の眼差しに宿るただならない強い意志は、やがて紅朱の心を少し、動かした。

「……10分、待っててくれ。とりあえず、着替えくらいさせろ」

 ボソリと呟いて、一度ドアを閉ざすと、部屋の中へと戻っていった。

 とりあえず、いきなり門前払いにされなくてよかった、と日向子は心から安堵した。

 だがそれは、もう後戻りの許されない状況になってしまったことをも意味した。

 日向子は手首を飾るブレスを見つめて、気を抜けば逃げ出してしまいそうな自分を震い立たせた。

 










 きっちり10分後、ボサボサだった髪をどうにか見られるようにセットしてグレーのダウンジャケットを羽織った紅朱が出て来た。

「……外でいいか? ちょっと寒いかもしれねェが」

「ええ、大丈夫ですわ」

 まだ少しバツの悪い顔をしたまま、微妙な早足で歩き出した紅朱に、日向子は置いていかれまいとしっかりついていく。

 冬の風に煽られる紅朱の深紅の髪は、後ろから見ているとまるで炎が揺らめくように見えた。

 その髪にみとれながら歩いていたため、不意に紅朱が立ち止まった瞬間、日向子は危うくその背中にぶつかりそうになった。

「ここでいいか」

「あ、はい」

 辿り着いた場所は、公園と呼ぶにはあまりにもささやかな石畳の広場で、東屋のような形状をしている。
 囲うように配置された葉の落ちた寂しそうな植え込みの真ん中に、古いベンチがあった。

 そこに紅朱と隣合って座ると、なんだか都会の喧騒から隔てられたような不思議な気分になり、日向子は澄んだ高い空を見上げた。。

「……素敵なところですわね」

「……たまに、来る。なんとなく気に入ってんだ。誰かと一緒なのは今回が初めてだけどな」

 紅朱もまた視線を空へ向けている。

 ばかみたいに並んで、青空を見つめていた。

「……昨日はカッとなっちまって悪かったと思ってる」

 空を見たまま紅朱は言う。

「頭冷やして考えた。……俺がお前の仕事の内容をどうこう言うなんて傲慢だったよな。
……高山獅貴クラスの大物の取材を任されるなんて、お前にとっちゃこの上ないチャンスだろ……何より、奴はお前の目標だったわけだしな」

 日向子は、そっと視線を空から地上へ……青から赤へと移行させた。
 紅朱の横顔は、あまりにもせつなそうで胸が苦しくなる。

 どうして彼は、高山獅貴の名を口にする度に苦しそうな顔をするのだろう。

「……迷惑ですか?」

 横顔に問掛ける。

「……これ以上、あなたの心に踏み込むのは……迷惑ですか?」

 紅朱は空を映したその目を細くすがめた。















「……留守か……」

 いくらチャイムを鳴らしても出て来ない部屋の主に、玄鳥はとうとう諦めを選択した。
 じっさい部屋の中は10分ほど前から無人だ。
 20分ほど前に、違う客が来たために、見事に行き違いになったのだ。

 諦めてマンションの敷地から出てすぐ、

「……あれ?」

 黒い小さい毛玉みたいなものが、坂の上からまるで転がるようにして向かってきて、玄鳥の脚の下で止まった。

「うにゃ」

 猫だ。

 銀の首輪をした黒い仔猫。

 アーモンド型の目で玄鳥を見上げている。

「……その首輪……シュバルツかい?」

「うにゃー」

 肯定するように鳴くと、また転がる毛玉のように素早く移動を開始する。

「あ、こら。そっちは車道だ。危ないよ」

















「……俺は多分、お前に全て打ち明けたいんだと思う……」

 紅朱は呟くように言った。

「打ち明けたら俺は少し楽になれる気がするから……だけど、打ち明けたなら、そのことできっとお前を傷付けてしまう……だから話したくなかった」

 その美声に苦渋がにじむ。日向子は首を左右に振る。

「……傷付く覚悟はしてきました。だから答えて下さい」

 振り返った紅朱の、色素の薄い透けるような瞳を真っ直ぐに見つめて、そして、その問いを投げ掛けた。

「……玄鳥様の本当のお父様は、伯爵様ですか?」


 紅朱は驚いたふうでもなく、最初から全てを悟っていたような顔をして、静かにその問掛けを受け止め、答えた。


「……そうだ」


「っ」

 日向子の心臓は、大きく高鳴った。

「綾は……俺の叔母、浅川紗(アサカワ・タエ)と高山獅貴の間に生まれた子どもだ」

「……お二人は、ご結婚を……?」

「……してねェよ。紗さんは一人で綾を生んで、死ぬまで一人で育てようとした」

 覚悟をしていたことなのに、頭の芯がビリビリ痺れていた。

 恋焦がれてきた人には自分と同じ年の息子がいて……しかもその息子はとても身近な人で。

 血の気が引いていく……。

「日向子」

「あ」

 紅朱が、おもむろに手を握ってきたことで我に返る。

「……これ以上、話さないほうがいいか? 無理するな」

 心配そうに問いながら、強く強く手を握ってくれる……ただそれだけのことが日向子を踏みとどまらせた。

 逃げてはいけない。

「……いいえ、全て聞かせて下さい……伯爵様と、紗様はどのようにして愛を育まれたのですか?」

 紅朱の顔が今まで以上に苦しそうに歪められた。


「愛を育む……か、そうだったらどんなによかっただろうな」

「え……?」

「……二人は恋人同士なんかじゃなかった……愛し合って授かった子じゃねェんだよ……!! アイツは……!!」

 紅朱の心をこうも頑にしてきたのは、まさにその重すぎる真実だった。
















《つづく》
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