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麻咲による乙女ゲー風(?)オリジナル小説ブログ

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 いらっしゃいませ。

 こちらは、麻咲(あさき)の乙女ゲーム風オリジナル長編小説ブログです。

 乙女ゲーム風とは、乙女ゲームのような設定に乙女ゲームのようなキャラ、乙女ゲームのような展開、そして乙女ゲームのようにマルチエンディングな小説のことです。

 そもそも乙女ゲームがわからないという方はググってみて下さい。笑。

 現在は、「太陽の国」という小説が一応完結しており、世界観を共有する新作「約束の虹」の製作に取り掛かっております!

 簡単な作品紹介については別の記事に載せていますので、長文駄文ではありますが、もし興味をお持ちでしたら是非暇潰しにご閲覧下さいませ。

 カテゴリーが本文インデックスとなっておりますので、ご利用下さい。

 コメント、メール、拍手にて感想を24時間お待ちしております。
 あわよくば相互リンクとかど、どうですか……!? 笑。

 またメールフォーム、web拍手は、乙女ゲーム感想・攻略中心日記ブログ・猫神草子と共有のため、レスは猫神草子の記事内にてお返し致しますのでご了承下さい。

 それではどうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さいな★
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【2009/09/25】
自作イラストup


【2009/09/04】
自作イラストup


【2009/08/03】
約束の虹・序章【5】up

【2009/07/28】
約束の虹・序章【4】up


【2009/07/26】
約束の虹・序章【3】up


【2009/07/22】
イメージイラスト【蝉】(鈴未様からの頂き物)
ありがとうございました★


【2009/07/18】
カテゴリーに「頂き物」を追加。

イメージイラスト【浅川兄弟】(鈴未様からの頂き物)

イメージイラスト【日向子】(鈴未様からの頂き物)up
ありがとうございました★


【2009/07/17】
約束の虹・序章【2】up



【2009/07/11】

約束の虹・序章【1】up



【2009/07/07】

猫神文庫・更新開始。
猫神草子より「太陽の国」のログインポート完了。
《ストーリー》


 世界的ピアニスト・釘宮高槻(クギミヤ・タカツキ)の令嬢・日向子(ヒナコ)は、幼い頃に初恋の人と交わした約束を実現させるために、父の反対を押し切って出版社に就職。

 音楽雑誌の記者となった日向子は、ある日、思いがけず大きな仕事を任されることになった。

 その仕事とは、人気アマチュアバンド「heliodor(ヘリオドール)」の半年に亘る密着取材だった。

 取材を通し、メンバーたちと交流を深める日向子は、やがて彼らの胸の内にある幾つもの秘密と、幾つもの傷を知り、心を揺らしていくのだった……。



《主な登場人物》


★釘宮日向子(クギミヤ・ヒナコ)

 本作の主人公。24歳・女。
 大手出版社「蓮芳社(レンホウシャ)」の音楽雑誌「RAPTUS(ラプタス)」の新米記者。
 記者としてのペンネームは「森久保日向子(モリクボ・ヒナコ)」。
 世界的ピアニスト・釘宮高槻(クギミヤ・タカツキ)の一人娘で、世間知らずで天然だが芯の強いお嬢様。
 「わたくし」「○○様」「~ですわ」と、かなり特徴的な話し方をする。
 将来の夢は初恋の人・高山獅貴(タカヤマ・シキ)のお嫁さんになること。



★紅朱(コウシュ)

 本名は浅川錦(アサカワ・ニシキ)。25歳・男。
 アマチュアバンド「heliodor(ヘリオドール)」のリーダーでボーカル担当。
 父方の遺伝で生まれつき髪が赤い。
 粗暴な面もあるが、責任感が強く男気のある兄貴肌。
 鈍感で感情の機微(特に恋愛方面)に疎く、日向子のことはあまり異性として意識していない。
 ある理由から高山獅貴(タカヤマ・シキ)をひどく嫌っている。


★玄鳥(クロト)

 本名は浅川綾(アサカワ・アヤ)。24歳・男。
 アマチュアバンド「heliodor」のギター担当。
 紅朱の実の弟で、容姿は似ているが髪は赤くない。
 生真面目な優等生タイプで、バンド一の努力家。
 出会ってほどなくしてから日向子に想いを寄せるが、奥手なため全く伝わっていない。
 兄との兄弟仲はいいのだが、ある種の複雑な感情も抱いている。


★万楼(マロウ)

 本名は能登響平(ノト・キョウヘイ)。19歳・男。
 アマチュアバンド「heliodor」のベース担当。
 最年少でバンドに加入したのも一番遅い。
 基本的には明るく人懐っこい屈託のない少年だが、不安定で繊細な一面を持っている。
 甘いモノには目がなく、いわゆる痩せの大食い。
 日向子のことを「お姉さん」と呼ぶ。
 何故か高校時代のある時期の記憶が欠落している。


★蝉(ゼン)

 本名は釘宮漸(クギミヤ・ゼン)。25歳・男。
 アマチュアバンド「heliodor」のキーボード担当。
 紅朱とともに、結成当時から残っているメンバー。
 おしゃべりでいつもテンションの高い、バンドのムードメーカー的存在。
 面倒見が良く、個性的なメンバーたちの間に入る潤滑油となっている。
 日向子に対しても気さくに接しているが、何故か挙動に不自然さが漂う。


★有砂(アリサ)

 本名は沢城佳人(サワシロ・ヨシヒト)。26歳・男。
 アマチュアバンド「heliodor」のドラム担当。
 蝉の幼なじみで、現在ルームシェア中。
 ドライで厭世的、加えて生活、時間、異性関係等あらゆることにルーズな、バンド内きってのトラブルメイカー。
 関西弁で話し、日向子のことを「お嬢」と呼ぶ。
 マスコミ嫌いなため、最初は日向子を歓迎しない。


★高山獅貴(タカヤマ・シキ)

 通称・伯爵(カウント)。あるいは「吸血鬼」。
 カリスマ・ミュージシャン。かつて伝説のバンド「mont sucht(モントザハト)」のギターボーカルだったが、解散後はソロ活動を続けつつ、事務所を構えて音楽プロデュースにも着手している。
 日向子の初恋の相手であり、現在進行形で強い憧れを寄せている。
 日向子の当面の目標は彼と再会することなのだが……。


☆美々(ミミ)

 日向子の年上の親友で、「RAPTUS」編集部では先輩に当たる。
 モデル系の美人で、しっかり者のツッコミ役。
 「heliodor」のことにかなり詳しいが、何故か自分に回って来た取材の仕事を日向子に譲る。


☆雪乃(ユキノ)

 日向子の父・釘宮高槻に才能を見出だされて後継者候補に選ばれた青年。
 少年時代より釘宮家で暮らして来たため、日向子にとっては兄のような存在。いつも日向子を車で送り迎えする。
 常にクールで感情をあまり表に出さないが、実は……。


☆釘宮高槻(クギミヤ・タカツキ)

 日向子の父。世界的に有名なピアニストで、実業家でもある。
 妻である水無子(ミナコ)はすでに他界している。
 厳格な人物で、ある理由から軽音楽を毛嫌いしてもいる。
 日向子が記者になったことを快く思っておらず、しかるべき相手のところへ早く嫁がせたいと考えている。



《構成》


 本編は序章から終章まで実質14の章から構成されており、終章は各キャラクターとの恋愛エンディングとして複数用意されている。

 外伝は、#1~#5がバンドメンバーの過去を描いた物語、#6は序章と第1章の間の出来事です。



 今すぐ「太陽の国」を序章からや読む方はこちらからどうぞ★
 序章以外から読む方は、TOPのカテゴリから選んで下さい★★
《ストーリー》

 芸能音楽事務所「フジムラ・エージェンシー」のアーティストマネージャー・折笠マキナ(オリカサ・マキナ)は、美人だが男性不信で、どんな男に口説かれてもけっして落ちないことから「鋼鉄のマキナ」と呼ばれていた。

 ある日マキナは、事務所の社長で音楽プロデューサーでもある藤群高麗(フジムラ・タカヨシ)がドイツから直々にスカウトしてきたボーカリストと、彼が所属することになる新しいバンドのマネジメントを任された。

 事務所をあげての一大プロジェクト・「Sternebogen(シュテアネボーゲン)」……任された仕事の重大さに大いにはりきるマキナだったが、藤群が連れて来たボーカリストは、マキナが高校時代に1ヶ月だけ付き合っていた元彼・アインだった……。



《主な登場人物》


coming soon ...



《構成》


coming soon ...
「ねえ。100円、頂戴」

 なれなれしく肩を叩いてきた赤の他人。

「100円足りないんだ」

 その赤の他人からのぶしつけな要求が、

「……100円?」

 問答無用に黙殺されずに済んだのは、

「うん。412円と、あとはもうおっきいのしかないんだ」

 単純に彼の笑顔が、可愛かったからだ。

「100円玉、キミは持っていないかな」

 その笑顔に捕まった、彼女は重たくマスカラを重ねた睫毛を一瞬しばたかせた。

「え……えっと」

 彼女がポケットに押し込んだコインケースの中身を思い出すよりも早く、


「はい100円!!」


 前後左右から銀色のコインを乗せた掌が彼の前に差し出された。
 合計四枚。

 その持ち主たちはみんな「美少年と仲良くなる突然の大チャンス」に目がぎらついている。

「はは、東京の女の子ってみんな優しいんだな」

 その美少年は、いよいよ嬉しそうに顔をほころばせた。

「どうもありがとう」

 4枚の100円玉を、集めて握り締める。

 そこにもう一枚、100円玉が差し出された。
 肩を叩かれた彼女だった。

「よ、よかったら……」

 美少年はそれも遠慮なく受け取ると、他の四枚と合わせてぎゅっと握った。

「やった。ドリンク代、浮いた」

 「円」で「縁」を買った女の子たちは、さっと彼を取り囲んだ。

「ねえねえ、《東京の》、ってことはお兄さん遠征組?? このイベ」

「どのバンド見に来たの? あたしはねぇ、3ば」

「そのチケ、Bチケ? 前のほう場所とっといてあげるから一緒に見ない? 上手側のほ」

「ねえねえ、せっかくだからメアド交換しな~い? 赤外せ」

「あの、あたし、リサ。あなたは?」


 聖徳太子のアビリティは身に付けていない美少年は、唯一聞き取れた最後の質問にだけ、ゆっくりと、答えた。質問者は、最初の少女だった。

「ボクの、名前? ……万楼(マロウ)、って呼んで」




#1・【万楼 ―2006・春―】






「あれ、帰るの? リサ」

「ううん。目当てのバンド終わったから、残りは後ろで見ようかなって」

「そうなんだ」

「……万楼、ライブハウスってあんまり慣れてない?」

「初めてなんだ」

 開場時間まで万楼を質問ぜめにしていた「バンギャ」たちは、前方の似たような集団の中にめいめいに潜り込んで、もう薄闇の中でなくても見分けがつきそうになかった。

 一方。機材の入れ換えを行う暗転したステージを、壁に寄りかかりながら見つめる万楼の、中性的で整った横顔は、すれ違う人をいつも少し振り向かせた。

 リサは少しだけ得意気に、そんな万楼の隣に立った。

「高松から来たって言ってたよね」

「うん。飛行機で」

「万楼はリッチだね。あたしは金沢から。高速バスの夜行で」

「遠征、っていうんだっけ」

「うん。当たり前みたいにうちらは使うけど、改めて言われるとなんか仰々しい言葉だよね」

「カッコいいと思うよ」

 万楼はそう言って、サラサラした直毛の髪をサイドかき上げる。
 長い前髪の隙間からのぞく大きな瞳は、正面からではきっと直視できないほど眩く煌めく。

「ねえところで、携帯、ホントに持ってないの?」

「持ってないんだ。携帯もパソコンも」

「不便じゃないの?」

「なぜ? 昔はそんなものなかったのに、みんな平気だったよ」

「……万楼って、だいぶ変わってるね」

「そうかな」

「うん。変」

「変かぁ」


 リサの言いようにも特に気を悪くするでもなく、万楼は、

「リサは東京のバンド、詳しいのかな」

 ふと話題を変えてきた。

「《heliodor(ヘリオドール)》っていうバンド、知ってる?」

「ヘリオドール?」

 シャン、とステージの上でセッティング中のシンバルが鳴った。

「ボクは本当はそのバンドを探しているんだ。だけど」

 万楼の大きな瞳が微かに揺れた。

「ずっと前に活動休止して、行方がわからないって言われたんだ」

 溜め息を吐いて、一瞬、唇を噛む。
 彼が初めて見せたうかない表情だった。

「だけど、今日のイベントに出るバンドの、サポートギターの人が、heliodorのメンバーによく似てるから見てみたら?って言われたから」

「紅朱(コウシュ)に、似てるんだよね」

「知ってるの?」

「heliodorは、有名だからね。人気あったし」

「紅朱って人が、ギタリスト?」

「紅朱はボーカルだよ。ギタボ。でも」

 リサはなぜか申し訳なさそうに声をひそめた。

「私は事故に遭って死んだって聞いたけど」

「……」

 万楼はリサを振り返り、緩慢な動きで首を左右した。

「それは、困る」

「困るって言われても……あ」

「どうしたの?」

「多分、あの人がそうだよ。サポートギターの人。確かに顔は紅朱そっくりだから、ネットでも話題になってる」

 リサはステージの上手を指差した。
 なんとはなしに、オーディエンスにも波のようなどよめきがあったようだった。

 ギターのチューニングをしているのは、20代前半くらいの細身の青年だった。
 黒と思われる短い髪に、一部白いメッシュを入れている。
 他のメンバーと同じようなカジュアルな黒いジャケットを羽織っていた。

「ペンギンみたいだ」

 万楼がボソッと評した。

「ペンギンって……」



 ほどなくしてステージを照明が照らし出し、人の塊がだっと前方に押し寄せる。SEと黄色い歓声がフェードインし、そしてアウトした。


 鳴り出した演奏の音に負けないように万楼は少し声のトーンをあげる。

「紅朱って人とは本当に違うの?」


「……違うと思う」

「どうして?」

「紅朱より、ずっと巧いから」










「全っ然動かない」

「終演後のドリンクカウンターは混むからね」

「覚えておくよ」

 ドリンクチケットを指先でもてあそびながら、万楼は小さく笑った。
 一方通行の人波に揉まれながら、渋滞するロビーで立ち往生する二人は、やはりなんとなく注目を集めている気がした。

「リサ、あのペンギンさんと話をするにはどうしたらいいのかな?」

「う~ん……噂だと《待ち》しても、ほとんどスルーらしいからね」

「話せないの?」

「難しいかな。でも、万楼は男の子だし、警戒されにくいから、少しくらいなら聞いてくれるかもしれないよ」

「本当に!?」

 久々に明るい表情に戻った万楼に、リサも笑った。そしてそっと手を差しのべた。

「ドリンクチケット、貸して。私が引き換えるから、万楼は先に行って待ってなよ。このハコなら多分、正面に向かって右奥の入り口からメンが出入りする筈だから、そこにいるといいんじゃないかな」

「いいの?」

「ペンギンさんと話せるといいね」

「ありがとう……!!」

 お互いに今日一番の笑顔を浮かべた。

 万楼からリサへ、ラミ加工された小さなチケットが渡される。

「メロンソーダにして」

「OK」










「お疲れ、玄鳥(クロト)」

「お疲れ様です。今日はありがとうございました」

 右手に持ったプラスチックカップに入ったビールが傾いて、危うく溢れそうなくらい深く一礼する。

「勉強させてもらいました」

「何言ってんだ、こっちはお前に食われないかハラハラもんだったぜ」

「そんな」

「だな。お前はちゃんと自分の存在感を演出しながら、メインを引き立てるコツを得てる。大したギタリストだよ」

「……褒め過ぎですって」

 いきなり手放しに称賛されて、玄鳥と呼ばれた青年は照れ臭そうに白メッシュの頭をかいた。

「……なんだか、紅朱が照れてるみたいでキモイな」

「……」

 それに関してはノーコメントで、玄鳥はビールを口に運んだ。

「なあ、玄鳥」

 同じようにビールをあおりながら、つい先刻同じステージに上がったボーカリストは、少し改まった声で問うた。

「heliodorはまだ動かないのか?」

 玄鳥は吊り気味のアーモンド型の眼をすがめた。

「まだです。肝心のベースが……」

「やっぱり、《粋(スイ)》ほどのベーシストの代わりが務まる人間はそうはいないか」

「ええ……特に、有砂(アリサ)さんがなかなか納得してくれなくて。みんな、毎日日本中を飛び回ってますよ。オレもそうするべきなのかもしれないけど、それより今はこうやって少しでも経験を積みたいと思ってます……オレは兄貴の右腕ですから」

「そう、か」

 残念そうに嘆息する先輩ミュージシャンに、玄鳥はカップを握る手に少し力を込めた。







 人々は暗黒の空を見上げ、ひざまずいて待望する。

 再びこの空に太陽が昇ることを。







「ペンギンさん!」

 玄鳥が思わず振り返ってしまったのは、あまりにも呼ばれ慣れない名前だったからだろう。

 すぐ側で誰かが吹き出したのがわかった。

「あの……オレ?」

「ペンギンさん、ペンギンさん」

 「ペンギンさん」を連呼するとびきりの美少年に唖然としつつも、玄鳥はコホンとベタな咳払いをした。

「あの、オレはペンギンさんじゃ……」

「ペンギンさんは、本当は紅朱さんって人なの?」

 直球な問掛けをぶつける美少年は、妙に真剣な顔付きだった。

「ボクは万楼。heliodorでベースを弾くために高松から来たんだよ」

「え……? 君は」

「ある人に、頼まれたんだ。だから……」

 「heliodor」の名前を出したことで、ただでも目立っていた二人は一気に周囲の視線を集めていた。
 それを察した玄鳥は、とっさに万楼の手首を掴んで引き寄せた。

「君、とりあえず一緒に来て……話を聞くから」










「その人なら、例の紅朱のソックリさんとどっかに行っちゃいましたよ。私もおっかけたんだけど、撒かれちゃった~」

「そう……ですか」


 リサは両手にプラスチックのコップを持ったまま、人もまばらになり始めた搬入口に立ち尽くしていた。

「万楼……ペンギンさんと話せたのかな……」


 もう一度会ってメロンソーダを渡せなかったのは残念だったが、リサには不思議な予感があった。

 万楼にはいつかまた会える気がする。そしてその時彼は、もしかしたら「向こう側」かもしれないと。

 どうしてそう思うかと聞かれれば、それは「バンギャの勘」というやつだろうか。

 カップの中でたゆたう、透き通った鮮やかな緑の液体を、迷った挙句口に持っていった。

「……少なくとも、二割はあたしのだし」

 






 潮騒の街からやってきたその少年こそが、最後の欠片だった。

 一度は完成し、そしてあっけなく瓦解してしまった「太陽の国」を再び形造るための……。


 明けない夜はない。
 朝日はもうすぐ、世界を照らす。










《END》
「綾(アヤ)くん」

 ドライバーシートからのけだるい声がそっと沈黙を破る。

「……ガム、取ってくれへん? グローブ・ボックスん中」

「あ、はい」

 少し頭を低くして、目の前の取っ手を引いた。

 中を覗き込んで、

「……」

 閉めた。

「……綾くん、ガム……」

「……なかった、です」

「……ホンマに?」

「……なかったです!」

「……もっと、よう探してや。ガムないとオレ、あと15秒で寝るから」

「……」

 抑揚のない脅迫を受けて、やむなくもう一度グローブボックスを開けた綾は、さっき見たものが幻でないことを実感した。

 なんでここに、こんなものが……?

「綾くん、早く」

「……はあ」

 綾は心を決めてグローブボックスに手をつっこみ、サラリとした手触りのピンク色の布切れを指でつまんでどかした。

 広げて確かめるでもなく、ソレは女性ものの下着だった。

 恐らくは、使用済みの。

 その下から現れたボトル入りのガムを手に取り、蓋を開けてドライバーシートに差し出した。

「サンキュ」

 つまみあげた黒い粒を口に放り込みながら、運転手が呟いた。

「欲しい? それ……」

「いや、オレ、辛いガムはちょっと苦手で」

「そやなくて、ピンクのそれ」

「え」

「……多分忘れ物やけど、どのコのかわからへんから」

 しれっとした口調でそう言われ、綾は体の血がぐっと上に昇るのを感じながら、ガムを再び投げ入れて、すぐさまグローブボックスを閉じた。

「い、いりませんよ」

「……綾くんって……」

 ふっ、と鼻から抜ける笑いを浮かべて、運転手が囁く。

「……チェリー?」








#2・【玄鳥 ―2004・秋―】








「なッ……」

 血の流れは更に加速する。

「あ、有砂(アリサ)さんッ」

「……ま、どっちでもかまへんけど」

 綾は、ウインドウにがくっと頭をもたげた。

 やはり苦手だ。
 この人は。

 ガムをゆっくりと口腔内でもてあそぶ有砂(アリサ)の、少しはだけた首のつけねには、まだ新しい痣が見え隠れしている。

 いけないものを見たかのように、綾は視線を逃がす。

 初めて会った時から、有砂の持つ独特の空気と言動は綾を戸惑わせてばかりいた。


 とりあえず気まずい(と思っているのはおそらく綾のほうだけなのだが)空気を変えるために話を振ってみる。

「あの……有砂さんは、どう思ってるんですか?」

「……何が?」

「兄貴はオレを認めてくれるでしょうか……heliodor(ヘリオドール)の新しいメンバーとして」

「……さあなぁ……オレは紅朱ちゃうから」

「……まあ、そうですけど」

 全くもって糠に釘だ。

 目指す目的地までのドライブのハンドルを握るのが、有砂になってしまったことは今の綾には不運なことだったのだろうか。


「……まあそこはジブンが巧く説得するんやな……あいつは単純やから、なんとでもなるやろ」

 まるで突き放すかのような台詞の後に、

「少なくともオレと蝉(ゼン)からは文句はないで……ジブンのハラがホンマに決まっとんのやったらな」

 続いた言葉は、綾の中で重く響いた。

 有砂の言うことは、正しい。

 これは、けっして中途半端な気持ちで決めてはいけない。
 本当にそれだけの覚悟があるのか。
 暗に有砂は確認しているのだろう。
 

「オレは……」

「……紅朱の気持ちは今九割解散に傾いとる。あの負けず嫌いの強情者が、オレや蝉にまで弱音を吐きよってみっともない……けど、実際はもうヤツは限界までズタズタな筈やで」

 胸をえぐるようなその内容とは裏腹に、有砂の口調は相変わらず淡々としたもので、それでも綾は真剣な顔付きで頭をウインドウに預けたきり、黙って耳を傾けていた。

「何の前ぶれもなく公私ともの大切な『パートナー』に去られた直後に、追い討ちをかけるようなあの『事故』や。あいつの右手は今後もう、長時間の演奏に耐えることはできんねんで? ……そう医者に言われた時の荒れっぷりは尋常やなかった。ギターボーカルゆうスタイルにこだわりを持っとった紅朱にしたら、それは喉が潰れるのと変わらんくらいのはかりしれない痛手やで」

「……兄貴、上京してから初めて向こうからオレに電話を……田舎に、帰るかもって」

 故郷を去っていったあの日とはまるで別人のような、かすれた疲れきった声が、その絶望の深さを物語っていた。
 口調はまだどこかに強がりの色を残してはいたが、そんなものがはったりに過ぎないのは明らかだった。
 少なくとも実弟の綾にわからぬ筈もない。

「……だけどオレは、兄貴にはバンドを続けてほしいと思ってます。たとえもう、ステージでギターを弾くことができないとしても、唄うことは止めないでほしい」

 綾はゆっくりと頭を起こして、決意を込めた口調で告げた。

「きっと、唄うために生まれてきた人だから。必要ならこのオレが、兄貴の右腕になります」

「……それは献身的兄弟愛の自己犠牲なんか?」

 そう鋭く問いつめる有砂の声は、どこかはりつめたものを感じさせた。
 綾は首を横に振る。

「それは、違います……オレが、好きなだけです。兄貴の唄。だからきっと、自分のためです」

 ふっと有砂は微笑を浮かべた。

「そうやゆうたら唄だけなんやってな、あいつが綾くんに勝てるものは」

「えっ……兄貴、なんか言ってました?」

 思わず前傾姿勢になって有砂を見やる。
 有砂は進行方向を見つめたまま、薄い唇に含みのある微笑を浮かべたまんまで、


「オレらは耳がタコんなるくらい聞かされたで。ガキん頃から弟はなんでも自分の真似したがりよって、結局なんでも自分より巧なってた、生意気なやっちゃゆーて」

「ちょっと待って下さい! 違いますよ。それは兄貴が飽きっぽくてすぐ投げ出すからですよ……続けてればもっと上達する筈なのに」

「……どっちの言い分が正しいんかはわからん。どっちも正しいゆーこともあるやろう。けど、少なくともギターのセンスはジブンのがずっと上やな……」

「……そうでしょうか」

「……ん?」

「オレは何をやっても自分が納得できるレベルに達したことなくて、誰に誉められても、どんな賞を貰っても自分に自信なんてもてないし、ギターも同じで、練習しても練習しても漠然と不安で……」

 赤信号でゆっくり停車し、ブレーキのゆるいGが車体に、そしてその中の二人にかかる。

 有砂は相変わらずガムを口の中で音もなく噛み転がしながら、またぼそりと囁く。

「……それは一応世間では《向上心》って呼ばれてるんやけど」

「……向上、心」

「浅川兄弟は揃ってプライドの高い野心家ときた」

「……」

 恐らくは生まれて初めて受けた評価に、綾は一瞬返す言葉を見い出せず、有砂を凝視してしまった。

「……あの、それって」

「……なかなか有望やと思うで、ジブン」

 よくはわからないが、どうやら誉められたらしいとわかり、綾は少し安心したと同時に照れ臭くてたまらなくなった。

 何やらさっきから、赤くなりっぱなしのような気がする。

「なんか、暑いですね……窓開けます?」

「……オレは肌寒いくらいやけど」

「そうですか……そうですよね」

 確かに秋真っ盛りの夜、普通の感覚なら有砂が言うように感じるのが普通だろう。
 有砂は短く息を吐いて言った。

「……まあ、そない暑いんやったら、後部座席の下のほう、さっき買った水あるから飲んでええよ」

「あ、はい……ありがとうございます」

 喉の渇きが一気に自覚された。
 綾は有砂の言葉に甘えようと、サイドシートを倒しながら体をひねって覗き込み、

「え」

 固まった。

「あの……」

「……また、忘れ物があったか?」

「……ええまあ……それと、その……丸まったティッシュとか、アレとか……あの、せめてこういうのは片付けたほうが……」

「……そうか、まあ、気を付けるわ」

 大して本気でなさそうな返事に、綾は引きつった笑みを浮かべた。
 普段は人の車だろうとゴミが落ちていれば片付けるが、流石にこれを触るのは気が引けるというものだ。

 なんだかんだと話を聞いてくれたり、結果的に不安を除いてくれたり、有砂は第一印象よりはずっと親しみを感じさせたが、彼からほんのりと漂う、男性用ではない香水の匂いが、なんとなく壁を築いている。

 年齢はせいぜい二つ・三つくらいしか違わない筈だが、その二倍も三倍もの隔たりを感じる。
 それは有砂が実年齢の二倍も三倍もの経験……修羅場をくぐっているからなのではないかと思えてならなかった。

 もし、本当に《仲間》になることができたなら、いつかはもっと知っていくのだろうか。

 今はまだ見えない、有砂の心の中や、有砂をこんなふうに形造った過去の一端を。

 手を伸ばして、目当てのエヴィアンのボトルを掴んで、シートを戻し、座り直した。

「それにしても、思ったより遠いですね。兄貴のマンション。あとどのくらいですか??」

「……ああそうやな、そろそろ向かうか」

「……え??」

 意味がわからなかった。

「……今、オレたち、兄貴のとこに向かってるんじゃ……」

「いや。ちょっと話がしてみたかったから適当に走っとっただけや……ホンマは20分とかからへん」

「……はあ」

 もう相槌を適当に入れるのがやっとだった。

 まだ一応冷えているミネラルウォーターを一口飲んで息を吐き出した。

「有砂さんのことがわかったような、わからなくなったような……」

「ところで綾くんは、名前、どうする気ぃや」

 当の有砂のほうは気にも留めずに別の話題を持ちかけてくる。

「名前……そうか、みんな本名じゃなかったんでしたね」

「何か考えてへんのか……?」

「そこまでは全然。まずはheliodorのメンバーにしてもらえるかどうかってとこが問題だと思ってましたし……そういうの考えるの苦手で。有砂さんはなんで、《有砂》って名前にしたんですか?」

 有砂は顔色ひとつ変えずに、答えた。

「昔オレを殺そうとした女の名前」

「は?」

「……カケル、2やな」

「あの……」

「まあ、大した意味はないんやけどな」

 どう考えても大した意味がないとは思えないが、それ以上つっこんではいけないような気がした。少なくとも今は。

「オレの名前は……ゆっくり、考えます。まだ時間は、ありますから」


 時間はある。
 考えるための時間。
 話し合うための時間。
 知っていくための時間。

 それはまだ始まったばかりの、永い永い、夜の物語。















《END》
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